| この頃 いい天気が続いてます なのにわたしは 部屋に篭りっきりです
悔しくて 仕方ないんです
わかる?
わたしは遊びに行きたいのー!!
Engel 5
パチッと音を残して、最後のキーから指を離す。
それから、ほんの一分、読み返して。
にやりと笑みを浮かべた。
終わった…!
思いながら、印刷するために用意して。
プリンターが動き出したのを確認したあと。
わたしはうーっと、伸びをする。
椅子を少し、後ろに引いて。
はぁ、と息を吐き出せば。
プリンターは早々と、印刷が終わったことを、わたしに知らせてくれた。
それを手に取って、眺めて。
大丈夫でしょう、なんて、見切り付けちゃえば。
わたしはもう、この部屋にいなくても、いいわけで。
「けいー、さやー、はじめー!!」
三人の名前を呼びながら、部屋を出る。
廊下に出て。
リビングへと、駆けて。
扉を開ければ。
彼はくすくすと笑いながら、なぜか台所に立ってた。
「? 何やってんの?」
「弁当作ってた」
「何で?」
「そろそろ終わるだろうって思ってたから」
「………」
「どこかに行きたいって騒ぐの、目に見えてたからな」
笑いながら、首だけ回して、そう言って。
また彼は、シンクへと目を向ける。
バレてるなー、なんて思いながら、広いスペースへと向き直れば。
小さな二人が、わたしに構わずに、じゃれ合ってた。
「わたしも混ぜてー」
言いながら、そばまで歩いて、座ったのに。
「パー」
って言いながら、朝は離れていく。
「………」
二足歩行まで進化を遂げた朝に、わたしはまんまと、逃げられたわけで。
呆然としていれば、彼の笑う声。
それにめげずに、颯へと手を伸ばすんだけど。
「颯…?」
「やー」
ぺちっと叩かれて。
颯もまた、リビングへと入ってきた彼の元へと、歩いていった。
「………」
彼は笑ってるだけ。
朝を抱き上げて。
颯でさえ、腕に抱いて。
わたしは誰にも甘えられないまま、そこで悲しく座り込んでいるしか、出来ないわけで。
「玲」
「…いいもん。どうせわたしは、一人なんだもん」
「言ってないだろ? 誰も。そんなこと」
二人をソファに下ろしてから、彼はわたしのそばまで来てくれる。
見上げていれば、そばに座ってくれて。
間髪入れずに、わたしは彼の首に、抱き着いた。
彼を呼ぶ、二人の声も、もう、半ば無視して。
「玲?」
「君を取られたら、わたしはどうすることも出来ません」
「…そうか」
「そうなの」
腕に力を込めて、ぎゅっと抱き着いて。
彼が抱き締めてくれるのを、待って。
「けど、おまえも悪いだろ?」
「……何が?」
「遊んでやってなかったんだから。この頃」
「仕事だったんだもん…」
「それでも」
「………」
「遊ぶのが仕事だろ? 子供は」
「…そうだけど」
彼の膝の上。
少しだけ離れて、彼の顔を見れば。
掠めるように、キスされて。
頬に、唇が落ちた。
「そう言えば、どこか行くの? お弁当持って」
「…ああ」
「今から?」
「今から」
「…どこに?」
首を傾げて聞けば。
彼は笑みを浮かべたまま、わたしの身体を床へと下ろした。
腕を解けば、彼は立ち上がって。
二人の上着を、用意し出す。
「珪?」
「森林公園」
返事を催促すれば、彼からは短い返答。
それににっこりと笑って、わたしも立ち上がった。
ちょっと寒いかなーって思ったんだけど。
冬なんだから、このぐらいの方がいいって言った、彼の言葉に、わたしはその通りだと頷いて。
森林公園に、足を踏み入れた。
はしゃぐ朝は、彼に任せて。
芝生広場の一角に、レジャーシートを敷いて。
そばにいてくれている颯を、小さく呼べば。
朝を見ていた彼女は、わたしのやっていたことに、興味を持ってくれた。
シートの端を持って。
引っ張って。
地に落ち着けて、ぽんぽんと叩けば。
颯も同じようにして、笑ってくれた。
それから、少しだけ遅い、昼食を摂って。
そうして。
彼は朝に手を引かれて、歩いていってしまって。
颯は、それを追いかけるようにして、歩きはじめて。
わたしは、また、一人だったりして。
でも、今は拗ねてないけどね。
彼の手を引っ張って、歩く朝と。
微苦笑でそれにゆっくりと付いていく、彼と。
それを追いかけるように、歩く颯。
何か、それを見てる今が、すごく幸せだなーなんて、思っちゃったりしてて。
いや。
それでもわたしは、一人なんだけど。
「………」
片付け終えて、軽く、息を吐いてみる。
淋しくないですよ?
もちろん。
でもわたしは、ここで一人なんだけど。
足を投げ出して。
その上に置いた、手を見て。
また小さく、吐息。
「マー?」
「玲?」
呼ばれて、顔を上げれば。
そこには、颯と彼がいて。
「どうしたの?」
「転んだ。颯」
「え?」
彼と繋いでいた手を離して、颯はわたしの上に乗ってくる。
怪我はないと思うんだけど。
だっていっぱい、着込んでるし。
「痛いとこある? 颯」
「?」
首を傾げた颯に合わせて、わたしも傾げてみるけど。
颯は何も言わずに、わたしの服を、掴むだけ。
それで、仕方なく、彼女の頭を撫でて。
その間に、彼は朝を連れて、戻ってきてくれた。
隣りに腰掛けて。
膝の上に、朝を置いて。
そうしていたのに。
彼は颯でさえも、わたしから取り上げる。
「?」
彼の顔を見上げていれば。
彼はくるりと、横を向いて。
身体ごと、横を向いて。
ゆっくりと、身体を倒してきた。
「珪?」
「ん?」
「寝るの?」
「ああ」
彼の腰の辺りで、彼を挟んで、颯と朝がいて。
疲れたのか、大きな欠伸を漏らしていて。
その二人の背を、彼は定期的に、叩いて、眠りを誘って。
わたしは、彼の髪に指をくぐらせて。
その暖かさに、笑みを零す。
幸せって、きっとこんな、些細なこと。
そんなことを思いながら。
風邪ひかないでね? なんて。
小さく、漏らしてみてた。
END
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