響く声に、また思う。
たぶん、俺が何か言われるんだろうな…。
不安そうな表情を浮かべているのを見て。
微苦笑で、その頭を撫でた。




Engel 2





寝転んで、小さな姿を、上へと上げる。
嬉しそうな声を上げてくれたのが嬉しくて。
何度も何度も、それを続けていたのだけれど。
突如――家の中に響いた泣き声に、眉根を寄せた。
腹の上に上げていた姿を置いて、上半身を起こす。
と。
今度は足音が響いた。
ばたばたと。
それが一度、遠ざかって。
近づいてくる。
きょとんとした表情をしていたにもかかわらず、俺が抱いていた小さいのも、今にも泣き出しそうで。
大丈夫だ、と一言綴って、頭を撫でた。
途端、その声は届けられる。
「珪!」
俺の名前を綴ると同時に、彼女は扉を開けて。
早足で近寄ってきたかと思ったら。
リビングのソファの上にいる俺を、見下ろしてた。
彼女の腕の中には、金色の髪を持った、小さな姿。
「朝とばっかり遊んでないで、颯の相手もしてあげて!」
そう言って、彼女はもう一人の赤ん坊を俺に押し付けて。
早々にリビングをあとにする。
泣いていた方の赤ん坊は、俺が遊んでやっていた赤ん坊の姿を見て。
わずかに泣き止んで。
泣き声に不安そうな表情を浮かべていた赤ん坊は、目にまだ涙を溜めている赤ん坊へと、手を伸ばしてた。
俺の…膝の上で。
その様が危なっかしくて、俺は床の上へと、二人を降ろす。
薄い、赤茶の髪を持つ赤ん坊は、彼女似の男の子。
名前を、朝。『あさ』と書いて、『はじめ』と読んで。
金色の髪を持つ赤ん坊の方は、俺似の女の子。
名前は、颯。『サツ』と書いて、『さや』と読む。
朝の瞳は、彼女と同じ、蒼い色をしていて。
彼女は「尽にそっくり」と、産まれたばかりの姿を見て、言っていた。
それでも俺は、彼女に似ているとしか思えなくて、可愛がっていて。
笑顔は本当に、昔の彼女に、そっくりだった。
対して、颯の瞳は、俺と同じ碧。
俺の子だと、かなり深く、実感することができる。
あまり俺には、笑顔を見せないと、俺は思っているのだけれど。
それは、彼女曰く……気のせい、らしい。
けれど。
颯が一番、笑みを向ける相手は知っている。
母親である、彼女よりも――笑みを向けるのは。
一緒に生まれてきた、朝。
機嫌をよくしたのか、一緒に遊び出した二人に、笑みを零す。
リビングに常時置いてあるおもちゃを取ってやると。
興味を示したのは、朝だった。
本当に、玲にそっくりだな。
思いながら、手渡して。
朝が興味を示したからか、颯も覗き込む。
二卵性の双子。
どこから見ても、似てるとは思えないけれど。
それに、俺たち両親が加われば。
信じてもらえるのかも、しれない。
に、しても――。
「本当に、おまえは朝には笑うな」
声をかければ。
颯は首を傾げていた。
それに気づいて、朝が顔を覗き込んで。
何かを言って。
颯が手を伸ばして――笑う。
俺にはこんなこと、絶対にない、と…思うのに。
まぁ、いいか。
俺も床に直に座って、二人を見る。
気づいた朝が、俺へと手を伸ばして。
その表情に、俺も笑みを浮かべた。
颯を抱き上げて、膝に座らせる。
その目の前に朝が座り込んで。
二人で笑う。
本当に、朝がいると、よく笑うな。
二人の頭を、同じだけ撫でて。
俺はただ、二人の様子を見続けていた。



朝と颯の二人が、腹の中にいる時から、彼女はにわかに忙しさを見せていた。
妊娠している時だからこそ、とかって、そういう内容の原稿依頼を受け続けて。
問題は、それからあと。
双子だったから、ということもあってか。
今度はそっちの原稿依頼が一気に増えた。
彼女の担当もやってくれている、編集長の諸岡さんは。
彼女が断ってもいいように、って考えてくれているというのに。
気づかないのか、彼女はそれを、受け続けている。
俺も今は、大きなプロジェクトはないし。
子育てに参加できているけれど。
「けど、こうやって見てると、やっぱり似てるな」
大き目のベビーベッドに、二人並んでいるのを見て、俺は呟いた。
朝が、颯に触れる形で、手が繋がれていて。
身体は上を向いているのに、顔は向き合っている。
ふっと笑んで。
手を伸ばして。
薄い布団を、かけ直した。
俺たちの子。
そんな風に思うと、かなり嬉しくて、仕方がなくて。
どうしても頬は、綻んでしまう。
そんなことをしていると、ドアが躊躇いがちに、開けられた。
顔を向けずにいると、こちらを伺っている視線。
それから少しして、ぱたんと、扉は閉められた。
絨毯を擦るように歩いてくる、足音が聞こえて。
背中に張りついてくる、暖かさに、ふっと、笑みが零れた。
「珪」
「ん?」
「あの…ごめんね?」
前に回された両手が、きゅっと繋がれて。
俺はその手に、自分の手を重ねる。
「それと、ありがとう」
「…ああ」
腕を緩めさせて、身体を反転させると。
薄暗い部屋の中でも、彼女が不安そうな表情を浮かべているのが、わかった。
頬に手を滑らせて、髪に指を、潜らせる。
「珪?」
「終わったのか?」
「仕事?」
「ああ」
「終わった。諸岡さんが、今月はもう入れないからって言ってくれたから、一週間はお休み」
「そうか」
「うん」
俺の胸に頬を寄せて、彼女は腕に力を込める。
それに、俺は彼女の髪を梳いてた。
何だか…子供よりも、俺に、気を傾けすぎてないか?
思い当たって、俺は口を開いた。
「玲」
「ん?」
「朝と颯のことはいいのか?」
言えば、彼女は顔を上げて。
俺を見て。
その動作が、酷く緩慢で。
俺は彼女の前髪を掻き上げる。
「玲?」
「あのね? こんなこと言うと、もしかしたら、母親失格…かもしれないけど」
「ああ」
「二人のことよりもね、珪のことの方が、わたしには大事なの」
「………」
「でも、でもね? 朝と颯のこと、どうでもいいわけじゃないの。だから明日からは、思いっきり、遊んであげるんだ」
彼女の言葉を聞いて、ふっと笑う。
つまり…。
つまり。
今日は…俺に付き合ってくれるということ。
「夕飯、作るね?」
「頼む」
「朝と颯、どうしようか? リビングに連れてっちゃう?」
「その方がいいか…」
「だって、また泣かれたら、大変だし」
「だな」
決まれば、彼女は俺から離れる。
迷わずに、颯を抱き上げた彼女に、笑みを浮かべて。
俺は朝を抱いた。
「颯が大きくなったら、いろんな服、着せてあげるんだ。絶対美人になるもん。珪にそっくりだから」
「はいはい」
「っていうか、颯さ。朝のあとをくっついてそうだね。仲良しな兄妹になりそう」
「ああ」
廊下を歩いて、リビングへ。
その途中。
「でも、この子たち。性格まで僕らに似ちゃったら、ちょっと困るね?」
そう零した彼女の言葉には。
ついつい、苦笑が零れ出てしまった。

END

 

でも本当は、玲似の女の子が欲しい、とか思ってそうです。
珪くん。

ともあれ、二人の子供。
はじめくんとさやちゃんの、二卵性双生児と、相成りました。
はい、最初から決めていたことです。
でもって。
どっちがどっち似かっていうのも、決めてました。
…メールで、言い当てられた時は、焦りましたが(汗)。

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