| 考えもしなかった っていうか
ちょっと酷いと思うんですけど!?
Engel 13
最初はそう。
颯の素朴な疑問からだった。
「おかあさんは、なにがきらい?」
「?」
聞かれたことが、一瞬、わからなくて。
わたしはそれでも、昼食の用意をしていた手をとめて、考える。
世間が休みの、穏やかな陽気の日。
昼食は温野菜サラダと、オムライス。
そう決めて、用意をしはじめて。
そして、その問いが投げかけられたのは、それから少しして。
嫌いなもの…ねぇ……。
顎に手を当てて、考える。
特にないんだよなぁ……。
思って。
いや、あるんだけど。
考えて。
多分、颯にはまだ早いだろうから、言えないって結論出して。
「…ないの?」
颯の小さな呟きに、焦点を合わせる。
それはそれは、とても残念そうな顔。
「うん…ないかな?」
考え続けた結果、やっぱりなくて。
わたしは苦笑を浮かべながら、そう答えた。
ごめんね、颯。
そうも加えて。
いや、何がごめんなのか、よくわからないんだけど。
嫌いなものがないっていうのは、いいことだから。
だからよく、わからないんだけど。
それでも、彼女の悲しそうな顔を見たら、謝罪しないままでいるのは、出来なくて。
「でも、どうして急に、そんなこと聞いてきたの?」
「! あ、あの…あのね……?」
「うん」
「えーと……」
「?」
様子がおかしい。
そう思っていたのに。
「颯」
「! おとうさん!」
彼が颯を呼んで。
颯は逃げるように、彼の元へ。
何? わたしには言えないこと?
「なんだって? 玲」
「…ないって」
「だから言っただろ?」
彼はくすくすと笑う。
つまり何?
わたしの話題が上ったか何かで。
わたしの嫌いなものが何かって話になったみたいな?
そんなとこ?
「玲」
思っていれば、彼からの呼びかけ。
少し不満に思いつつ、それを口に出してみたら。
彼はまた、笑ってた。
「向こうで待ってる」
「はーい」
憮然とした声と表情で返事。
彼は颯を抱き上げたまま、笑顔で踵を返して、リビングから出ていった。
――つまらない。
思って。
頬を膨らませて。
そのまま、また昼食の用意へと、わたしは戻るしかなかったのだけれど。
あの時に気づいておくべきだったのかもしれない。
日が変わって、月曜日。
二人の天使の部屋の入った途端。
そこにいたものに、わたしは呆然としてた。
朝、口うるさく、朝が部屋に入ったらダメだって言ってた。
おれたちがかえってくるまでは、だめだからね!
って。
これか……。
思い出して、考えて。
大きく吐息。
そこにいたのは、小さなカエル。
透明なプラスチックの箱に入っていて。
わずかに水も張ってあるけれど。
これをどうするつもりなの…?
思いながら、指でその側面に触れる。
プラスチック越しではあるけれど、その子は驚いたのか、一度、飛び跳ねた。
それに、くすくすと笑う。
嫌いな人もいるけれど。
わたしは平気。
虫も平気。
ヘビは……どうだろう?
間近で見たこと、ないからなぁ…。
あったとしても、動物園とかの、檻の中の、だから。
とりあえず、見なかったことにしないとなぁ……。
考えて。
覚えている限りで、ベッドの皺を、作っておく。
散乱してた、布団とか。
それも、覚えている限りで。
こんなだったかなぁ…?
扉の前で、首を傾げて。
ま、きっとこんなだったよ。
そう結論を出して、部屋から出る。
うん。わたしはこの部屋には入ってない。
決めて、わたしはリビングへと戻る。
……というか。
どうしてあれを、わたしに見せたくなかったわけ?
考えて。
考えて。
でも、答えは出なくて。
そして。
「………」
ゲコッと小さく声を上げて。
あの、天使の部屋で見た、小さなあの子が。
プラスチックの箱に入れられていたあの子が。
わたしが夕食の用意をしている間に、リビングのテーブルの上に移動して来たらしく。
………いやいやいや。
どう考えても、朝だろう。
結論出して、逃げていくその子を捕まえる。
お皿を移動させる前でよかった。
思いながら、左手の中へ。
それから、窓を開けて、その子を外へと逃がした。
ふぅ、と一つ、ため息。
窓を閉めて、台所へ戻って。
手を洗って、拭いて。
そうしていれば。
「あれ?」
なんて言葉と共に、三人がリビングへと入ってくる。
言葉を発したのは、やっぱり朝。
きょろきょろして、何かを探していて。
「タイミングいいね。今出来たとこ」
「ああ」
彼はくすくすと、笑っているだけ。
颯は、何かを探している朝を、目で追って。
「ほら、颯も朝も、お皿持っていくの、手伝って」
「あ…うん」
後頭部をかきながら、朝はまだ、諦めがつかない様子で、わたしのそばに来てくれる。
何となーくだけど、わかった気がする。
…言わないけど。
「さーて、ご飯だー!」
そう声を上げてみたら、彼はやっぱり、笑ってた。
END
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