あなたが
どっちを選んでもいいように
心を込めようと思ういや
いつも 君に届けるものには
心も 愛情も
込めまくってるけどね?
deal
「あ、ダメ!」
ぽいっと口に放り込まれたものに、わたしは手を伸ばすことも出来ずにいて。
わたしの言葉に、動きを止めた親友も、にっこり笑って、口を動かしはじめてくれる。
「無理」
なんて、言いながら。
「無理じゃなくてー…」
「いいじゃん。いっぱいあるんだし」
「そういうことじゃないのー」
もうー、なんて呟きながら、円形のテーブルに、天板を乗せた。
外して、クッキングシートの上で、冷ましていく。
今、彼女が食べてしまったのは、チョコチップクッキー。
元々、チョコチップは、ケーキのために買ってきたんだけど、残ったからって、作った代物。
それから、今、オーブンから出したのが、ブラウニーで。
代わりに入れたのが、チョコケーキになる予定の、スポンジの種。
「こんなに作って、どうすんの?」
「どうするって…?」
「全部、葉月さん?」
「ううん。出版社にも持ってかなきゃだし。珪の方のスタッフさんにも、持っていきたいし」
言いながら、冷蔵庫を開けて。
固まったムースと生チョコに、笑みを浮かべる。
生チョコを出して、ココアも出して。
「ご飯はー?」
「から揚げ。食べるなら、揚げるけど……もう食べる?」
「…まだいい」
椅子に腰掛けた麻衣の返事を聞いて、時計を見て。
確かにまだ早いね。
なんて思いながら、チョコを切っていく。
視界の端で、麻衣がクッキーを指でつまむのを見ながら。
ほとんど、諦めながら、ため息を吐いて。
「麻衣はそれで終了」
「え!? それはヤダ!」
答えると、麻衣はそれを元の位置に置いて。
それから。
「何か手伝おうか?」
なんて、聞いてくる。
…まったく。
「何が食べたいんですか?」
「…全部」
「………」
「出来るなら、葉月さんの分が、なくなるぐらい」
「それはダメ」
「………」
「お腹いっぱいになっちゃうよ?」
切り分けて、ココアを塗した生チョコを、麻衣の前に置いてあった皿に入れた。
それを、麻衣は少し、嬉しそうな顔をして、口へと運ぶ。
それを中断して、ブラウニーが冷めているかどうかを、確認して。
でもまだ、熱を持ってたから、切ることも出来なくて。
「明日持ってくの?」
「うん」
「葉月さんにも?」
「珪は今日、仕事終わったら、迎えに来てくれるって」
「ふーん…」
「…ごめん。泊まりに行っちゃいます」
「勝手にすれば?」
言って、麻衣は足元に擦り寄ってきた姫を、膝の上に乗せた。
それに、苦笑しか出来なくて。
「麻衣は? コータさんに」
「………」
「作らないの?」
「作れないもん」
「溶かして固めるだけでも、手作り」
「それも何かねー?」
「わかるけど」
答えながら、全部、塗し終えて。
今度は人数分、分けていく。
「これ終わったら、ちゃっちゃと作っちゃうから」
「お願いしまーす」
「はいはい」
「っていうか、あれは間に合うわけ?」
「ケーキ?」
「うん」
間に合うよ。
短く応えて、手を動かして。
切りのいいところで、時計を見て。
まだ平気、なんて、小さく呟く。
分け終えて、そこで、オーブンに呼ばれて。
わたしはオーブンから、うまくスポンジになってくれたそれを出した。
天板から出して、冷ましてる間に、ブラウニーを切り分けて。
麻衣の前に、一つ、置いてあげれば。
それはすかさず、麻衣の指で、つままれて。
口へと運ばれる。
「おいしーねぇ」
「何か投げやり」
「だってこれは、私のために作られたわけじゃないし?」
「まぁ……」
「でもま、おいしいですよ。甘さもちょうどいいし」
その言葉に、ほっと息を吐いて。
手を動かしていく。
ケーキはやっぱ、安直でも何でも、ハート型かなーとか、思いながら。
彼の家に着いて。
入れてもらったココアを一口、含んでから。
わたしはそれを、テーブルの上に置いた。
キレイにラッピングされた、二つの包み。
「…二つ?」
「二つ」
「……月宮から?」
「麻衣が用意するわけ、ないじゃん」
「………」
くすくす笑って。
それから、わずかに眉根を寄せている彼を、瞳に映す。
小さく、息を吐いて。
「一つは、きちんと作りましたが、一つは買いました」
そう、教えてあげた。
「どうして?」
「何となく?」
「………」
「材料買いに行ったら、可愛いの見つけて。自分の分って、買ったんだけど。それじゃ何か、お店の人に悪い気がして、君の分も買ってみた」
説明すれば、彼は大きなため息を吐いて。
それから、わたしの顔を見る。
「どっちかじゃなきゃ、いけないのか?」
「うん」
「……どうしても?」
「決められないの?」
静かに二つを見続ける彼が、何だか可愛くて。
小さく笑いながら。
「仕方ないから、二つともあげる」
そう、口にした。
そうすれば彼は、小さな方に、手を出して。
そして、それが買ったものだったことに、脱力してた。
「可愛いでしょ?」
「ああ」
聞いても、彼はそれを直視することはなくて。
大きい方に、手を伸ばす。
包装紙を破って。
中身を出して。
その顔を、じっと見続けてたんだけど。
いつまで見られるのかな、なんて。
ぼんやりと、思ってしまっていた。
END
|