たとえ
彼女自身を誉めても
彼女の顔色が変わることはなくて
たとえ 口づけたとしても
彼女の頬が染まることは ほとんどない
それが少しだけ
くやしかったりもする
pace
リビングのソファで、スケッチブックを広げて。
何とはなしに、クロッキーを走らせる。
そうし続けていたら、キッチンの方の扉が開いた。
気づいて、顔を上げて。
彼女を見れば。
組んだ両手を上に挙げながら、歩いていて。
それを下ろしたあとで、小さくあくびを零す。
失笑を落とせば、彼女の瞳が、俺を見た。
「何ー?」
「眠そうだな」
「違うの。飽きたの」
「はいはい」
指を立てながら言った彼女に、くすくすと笑みを零して。
そのあとで、俺は時計へと、視線を移した。
ここに座って、もう一時間近くが経っていたことに、少しだけ驚いて。
それから、立ち上がる。
「何か…作るのか?」
「そうしようかなー、どうしようかなーって、考えてるとこ」
「…そうか」
キッチンへと歩きながら問えば。
彼女は冷蔵庫を開けようかどうしようか、迷っていて。
「珪は?」
「ん?」
「食べたいものとか、ある?」
「特にない」
「だよねぇ……」
僕もそうなんだよねー。
ふぅと息を吐き出しながら、冷蔵庫に背を向けて。
そこに寄りかかってから、彼女は俺を見る。
その前に立てば。
彼女は小首を傾げて。
「何かご用?」
「……何となく」
「………」
本当に、理由なんかなくて。
ただ、彼女が近くにいるんだし、なんて思いで、ここに来ただけで。
彼女は不満気に、眉根を寄せてから。
急に、笑顔になった。
…と、思ったら。
「!」
「奪っちゃったー」
気が付いたら、唇は重なったあとで。
彼女は彼女で。
「昔、そんなCMがあったねー」
なんて、笑っていて。
「珪、顔真っ赤」
口を開く度に、そんなことを俺へと届けてた。
「…玲」
「何ー?」
「怒る。俺だって」
「したくなったものは、仕方ない」
「………」
「出来ればもちょっと、深いの欲しい」
「………」
――こういう時。
かなり、くやしいと思う。
彼女のペースなのは、もう、間違いなくて。
俺ばっかり、振り回されて。
…嫌ではないけれど、くやしくて。
「暇だから?」
「あ、意地悪言うー」
「………」
「暇じゃないの。仕事に飽きたの」
「気分転換?」
「そうとも言う」
「………」
「っていうか、君が目の前にいるから、そういう気分になっちゃうんだよね」
「………」
「手を伸ばして届くなら。触れたいって思うのは、当然のこと。
触れたなら、それ以上を望むのも、許されているから、仕方ない」
手を伸ばして、彼女の腰に、腕を回す。
ふわりと、唇で触れたそれは、離れた時にはもう、笑みの形に変わってた。
「仕方ないよね? 好きなんだし」
「…やめないぞ?」
「赤い顔で言っても、説得力、ないよ?」
くすくすと笑われて、俺は一度、視線を外す。
けどすぐに、唇を重ねた。
後頭部に回った手に、気をよくして。
彼女の望むように、深く深く。
ただ、首筋に唇を落としたら。
頭を軽く、叩かれた。
END
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最初、玲の頬を染めようかとも思ったんですけど。
それじゃ、何だかありきたりなので、やめました。
そうなるともう、珪くんに赤くなってもらうしかないわけで(苦笑)。
『二次創作書きさんにたった10のお題』より、お借りしました。
六つ目は、『紅色の頬』。
ここまで来ると、いかに裏にしないかで、悪戦苦闘。
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