何が何でも

そう言ったら
やっぱり君は 困るのかな?

それでもやっぱり
答えてもらわないとね




10YEARS AFTER





玄関で靴を脱ぎながら。
わたしはきちんと、彼のものがそこにあることを確認する。
そのあとで。
「けーいー!」
彼の名前を呼びながら、廊下へと上がる。
返事をしてくれないことは知っているから、わたしはスリッパも履かずに、駆け出して。
「珪!」
リビングの入り口に立って、声をかける。
けれど、そこに彼はいなくて。
わたしは廊下の先。
階段へと、目を向けた。
手荷物を持ったまま、階段を上がって。
ついでだし、彼の答えを聞いたあとで、仕事場にでも置いてくればいいや。
なんて、軽く考えながら。
「けーいー!」
もう一度、声を上げる。
そうすれば彼はアトリエのその扉を開けてくれて。
廊下を進むわたしに、顔を見せてくれた。
「どうした?」
「聞くの忘れてたの」
「…何を?」
「誕生日プレゼント! 何がいい?」
彼の前に立って。
少しだけ、肩で息をしながら、そう言葉を紡いだ。
諸岡さん、資料をくれるのはいいんだけど。
もうちょっと軽くしてくれればよかったのに……。
なんて。
ほんの少しだけ、思ったりもして。
なのに彼からの返答は、ないまま。
荷物を廊下に下ろして。
自分の足を支えにするようにして、置いて。
彼の顔を見上げれば。
眉根を寄せて、考え込んでた。
…ないの?
思いつつ、わたしも眉根を寄せてみる。
腕を組んだ彼に、小さく息を吐き出して。
「とりあえず、荷物置いてきていい?」
そう、聞いてみる。
彼は短く、許可の言葉を発して。
なおも、考えてた。
ほとんど、生返事っぽかったけど。
それでもわたしは、荷物を手にして、自分の仕事場へと進んでいく。
考えてみれば、毎回これ。
ドアを開けて、中へと入る。
ようやく、自分の誕生日を覚えてくれたけど。
それはまぁ、どうでもいい。
覚えても覚えてなくても、どっちでも。
どうせわたしが、近くなったら、彼に直接言うんだし。
けど、彼は毎年、聞いたわたしに、すぐに答えをくれることはない。
欲しいものがないなら、別にそれでもいいけど。
もらった本を、棚へと納める。
そうしてから、部屋から出れば。
彼はまだ、そこにいて。
ただそこで、何かを考えながら、指を折ってた。
数えてるような、感じ。
――何かは、知らないけど。
わからないけど。
「珪?」
「………」
「?」
「俺……」
「うん」
「おまえに何か、ねだったこと、あったか?」
「………」
聞かれて、思い出す。
けど。
「……これ欲しいから、買ってって…こと?」
「…ああ」
「食べ物でなら…あるけど……」
「あとは、おまえに聞かれて…だろ?」
「……うん」
遠慮がちに、頷いて。
彼の顔を、見続ける。
彼も、わたしの瞳を見返してくれて。
それでも。
「…ないんだ?」
「……ああ」
ってことで、落ち着いてしまった。
そう言われてもなぁ……。
「わたしv」なんて言っても、わたし自身は、彼のものだから。
それは出来ないし。
したくない。
だって、こういう時だけ、あげるっていうのも、変な話だしね。
一人で考えて、完結して。
うん、なんて、首を縦に動かした。
彼はまだ、考えているのか、何も言わないし。
瞳はわたしから逸れて。
わたしは小さく、嘆息。
何もいらないなら、別にかまわない。
それでも。
今が、彼にとって、幸せってことなんだから。
これ以上は望まないってこと。
そう思って、笑みを浮かべれば。
彼は「あ」って、小さく声を上げた。
何?
驚いて、瞬きをすれば。
「なぁ、こういうのも…いいのか?」
「? こういうのって?」
「今、もらわなくても」
「…君の今年の誕生日までは、まだちょっと、ありますが?」
「そうじゃなくて……今年、もらわなくてもってこと」
「?」
「来年…じゃ、現実味がありすぎるか」
「?」
わからなくて、眉根を寄せる。
顎に手を添えて、彼は少しだけ、黙り込んで。
「また、一緒に過ごせればいい」
そう、ポツリと綴った。
「うん。来年も、その次も、でしょう?」
「いや。計画とか…できそうだからな。近い未来だと」
「………」
来年じゃ、現実味がありすぎる。
その意味が、今、ちょっとだけわかった気がする。
俗に言う、銀婚式とか、金婚式とか。
そういうものと、同じような感じにしたいのかもしれない。
自分の……誕生日を。
彼は。
「何年後がいいでしょう?」
笑みを浮かべて聞けば、彼はふっと、微笑。
自信があるから、大丈夫だよ?
何年後でも、君のことが一番だっていう自信。
だから、その約束は、ずっと覚えていられる。
君が望む、何年後かの、その日。
今年とまったく同じ料理を並べてあげる。
自分の中で、そう決めて。
わたしは彼の返答を、待っていた。

END

 

お誕生日SS、第2弾。
短く短く、まとめてみました。
気を抜くと、長くなっちゃうので。

それでも!
珪くん、誕生日おめでとー!!

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