言葉数が少なくなるのは、覚えていたいから。
あなたと過ごしている今を、一生懸命、覚えてるから。
覚えていたいから。
あなたを好きでいる限り。
ずっと
ずっと
帰り道。
彼の言葉を聞いて。
相づちを打って。
笑みを零す。
時折、言葉を落として。
そう、毎日と同じように、過ごしていたのに。
「どうした?」
「?」
「今日…あんまりしゃべってない。おまえ」
聞かれて。
言われて。
彼女は瞬きを数回したあとで。
「え?」
なんて言葉で、聞き返して。
首を傾げて見せた。
変わらない…と、彼女は思う。
「疲れたのか?」
「ううん。そんなこと、ないけど……」
いつの間にか、歩みは止まっていて。
彼も、彼女を心配するように、目の前に立っていて。
それに気づいてから、彼女は首の位置をまっすぐに戻した。
そうすれば。
ふわりと、彼の手が伸びて。
彼女の前髪の下。
額に、直接触れてくる。
「は、葉月くん!?」
「ないみたい…だな」
「な、何が!?」
「熱……」
「う、うん、大丈夫!」
かばんを落としそうになりながらも、片手でやんわりと、彼の手を退かして。
彼女はきつく、瞼を下ろす。
どきどきとうるさくなってしまった心臓を。
必死に正常に戻そうと、胸に手を当てて。
「東雲?」
「大丈夫」
まだ、ちょっとだめだけど。
思いながら、笑みを浮かべて。
それからゆっくりと、足を踏み出す。
彼は、照れもせずに触れてくる。
それがどういうことを意味しているのか、わからないわけではないから。
少しだけ、悲しいけれど。
それでも。
触れてくれたことは、嬉しいから。
彼を好きでいる限り、忘れないと、彼女は思う。
そんなことを、考えて。
「葉月くん?」
ついてこないことに、振り返れば。
彼は変わらずに、そこにいて。
彼女は足早に、彼のそばへと戻っていく。
「どうしたの?」
「…べつに」
答えて。
彼はぎゅっと、見続けていた手を、固めた。
額に当てられた手だと、彼女が気づくまでは、ほんの一瞬で。
気に障るようなことを、何かしてしまっただろうかと、彼女が眉尻を下げてしまったのは、仕方のないことで。
視線を少しずつ、下へと向けていけば。
ポンッと、頭を叩かれる。
「帰ろう」
言葉に。
恐る恐る、顔を上げて。
不意の、彼の笑みを瞳に映して。
こくんと、彼女は首を縦に振った。
今日という日を忘れないために。
明日に、少しでもいいから、繋げるために。
あなたに関することなら。
ささいなことでも、いいから。
覚えておきたい。
あなたを好きでいる限り。
でもきっと、あなたのことは、好きでい続けるだろうから。
覚えてるの。
ずっと。ずっと。
END
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