どうしたらいいのか
わからないどうすればいいのか
わからない
答えを出すべきだと
心は叫ぶのに
罪悪感
三つ目の選択肢は。
まだ取れる。
選び取れる。
そう、思い続けて、今日一日を終えられた。
ただ、そう…思い込んでいただけなのかも、しれなかったけど。
「柊」
放課後。
というには、まだ早い時間。
最後の授業が終わった直後に、そう呼び止められて。
私は、足を止めた。
久しぶりに聞いたかもしれない。
そう思ってしまったのは、仕方のないこと。
だって……彼のところに行かなくなって、もうすでに、一週間以上が経っていたから。
明日は終業式。
明日で、一学期が終わる。
そんな…日だったから。
「…何か用か?」
振り返ることができなかったのは。
きっと、小さな罪悪感から。
……『罪悪感』から?
どうして?
「ちょっと来い」
そう言った彼は、私を追い越して。
少し早足で、廊下を進んで。
その後姿を見ながら、私は小さく、息を吐き出した。
彼とは違って、私はゆっくりと、彼の後を追いかける。
どうせ行くのは、保健室。
そう、思っていたのに。
彼の姿が止まったのは、私の、砦。
数学、教諭室。
その、前で。
私は、目を細めて、足を止める。
どうしてそこ?
聞きたくても、聞けなくて。
向けられていたものに、不意に合わせてしまった視線に。
私は半分、意固地になって、歩き出した。
彼を退けるようにして、扉の前に立って。
その扉を開ける。
先に中へと入って。
持っていたものを、奥の机の上へ。
そう、思っていたのに。
「!」
急に腕を引っ張られて、私の身体はあっけなく、彼の前に戻っていた。
背中に、彼の胸が当たる。
持っていたものは、音を立てて、床に散乱してしまって。
でも何も、考えられなくて。
その間に。
彼の腕は、私を包み込んでた。
「…りゅう……たろ……?」
「何やってんだ…? オレ……」
耳に直接注ぎ込まれた声と。
吐息と。
強くなった、腕の力。
彼の体温。
何を考えたらいいのか、わからなくなる。
「…はなして……」
それでも、これだけは、頭が働いてて。
まだ、三つ目が取れるなら。
ほかの選択肢は、取りたくはなかったから。
一つ目の選択肢は、まだ、酷なものだと思えて、仕方がなくて。
だからといって、二つ目を取って。
さらに生まれる、選択肢で、悩みたくはなくて。
だから、三つ目が取れるなら。
背後で、扉が閉まる音がして。
直後に、彼の左腕も、私の身体に回る。
まだ。まだ…!
逃げているのは知っている。
でも、逃がしてほしい。
優しい空気に包まれるのは、嫌。
今のままが、いい。
「…橘のが、いいのか?」
「そうは…言ってない」
「………」
「優しくされるのが、嫌なだけ」
でも、橘の優しさには、慣れてきたかもしれない。
彼がその名前を出したからか。
頭の中で、そんなことを考えてた。
ふわりと香る、甘い香りと。
優しい、笑顔と。
でも彼が纏うのは、別のもの。
甘くはない、タバコの香り。
優しさは、どちらかというと、わずかなもの。
それでも、その裏側にはいつも、優しさがあるのは、知ってる。
直接的なものか、間接的なものか。
その…差なのかも、しれないけれど。
だからこそ。
二つ目を選び取りたくはない。
その先にある、二つの選択肢で、悩みたくはない。
でも、一つ目も、取りたくはない。
「放して」
それしか、言えなくて。
でも、包み込むそれは。
緩むことはなくて。
「おまえが、誰と何しようが、別にいい」
「じゃあ…!」
「でも! そう、思ってるはずなのに。何か…変なんだ」
また、強くなって。
それでも、身体が訴えるのは、痛みではなくて。
あたたかさからの、解放だけ。
痛みを発してるのは、胸だけ。
流されてしまっても、いいかもしれない。
そう、思う。
でも、そうなったら。
あの優しい時間を、手放すことになる。
それは、嫌で。
やっぱり、最低なんだと。
そう思ってしまう。
答えを出すのは、自分。
考えて。
考えて。
その上で、答えを出さなくちゃいけないのは。
自分だけ。
ほかの人が、出していい答えじゃない。
ほかの人が出した答えは。
自分のものじゃ、ない。
縋るように、彼は私を、抱き締めて。
私はそんな彼に。
何も…できないままで。
ただ。
彼の名前を、呼び続けるだけだった。
END
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