こんな自分は知らない。
けれど、それでも。



生まれたもの




ふぅ、というため息が聞こえて、彼は顔を上げた。
見れば、そこには彼女がいて。
カウンターの隅で項垂れていた。
店の中の客は自分だけで。
あとは店員である彼女と店長だけ。
「疲れたかい?」
「ちょっと…」
出されたカップに両手を添えて、彼女はそれを覗き込む。
彼の視線に気づいたのは、その時。
一瞬目を丸くして。
それでも嬉しそうに笑みを浮かべて…彼女はカップを片手に彼の目の前へとやってくる。
「起きてたんだ?」
「誰かさんのため息が大きかったから」
「…ヒドイ」
頬を膨らませて見せながら、彼女はいすに腰かける。
横座りのそのままで、カップを口元で、傾けて。
「忙しそうだな」
「だった、だよ。今は平気」
だから、ちょっと休憩。
今度は嬉しそうに笑って、「おいしい」と呟く。
それにふっと彼は笑った。
「何?」
「いや…、忙しいやつだな、と思ってな」
「忙しいって…何が?」
「怒ったり…笑ったり」
「……普通でしょ?」
「そうか?」
「そうだよ」
向き直って、彼女はにこにこと微笑んで。
彼はわずかに眉を顰める。
「今日もしてるんだね、指輪」
自分の指を人差し指で差して、彼女は聞いてくる。
「ああ」
「新しいの、増えてない?
この前はなかったよね? その…中指の」
「この前の休みに…できあがったから……」
外して、彼は彼女の目の前へと差し出す。
それを恭しく受け取って、彼女は自分の目の高さまで持ち上げた。
じーっと、真剣な瞳で見つめて。
そのすぐあとに、笑う。
「やっぱりすごいなぁ。綺麗だもん。羨ましい」
「何が?」
「こういうのを造れるのが。それに…考え付くのも」
「そうか?」
「うん」
指輪を返しながら、彼女は紡ぐ。
店内の電気を反射して、銀色のそれは、わずかに白く見える。
「いろんなものを吸収してないと難しいよね。インスピレーションを大切にしてないと難しそうだし。思いつたら、すぐに描いておくの?」
「時間があれば」
「ない時は…覚えておくの?
忘れない?」
「時々」
「もったいなーい!」
「仕方ないだろ」
「そうだけど…、でも、ちょっともったいないなー」
元の場所へと収まる指輪を眺めながら、彼女は頬杖を突く。
視線に気づいて、彼はふっと肩を落とした。
「全部造るわけじゃないしな」
「それも…ちょっともったいない……」
「そればっかりだな」
「だってー、珪くんから生まれたものなんだよ?
それが消えちゃうのって、何か悲しくない?」
「…俺から……生まれたもの?」
「そうだよ?
珪くんが考えたものなんだから、珪くんから生まれたもの」
嬉しそうに笑い、彼女は思い出したようにカップを手に取る。
出入り口が開かれたのはその直後。
静かな店内に響いたその音に、彼女は条件反射のように立ち上がる。
「いらっしゃいませー」
そう声をかけて。
「ゆっくりしててね」
彼にも小さな声でそう言って、彼女は離れていく。
仕方ない、とそう思いながら、働き始めた彼女の姿を見続ける。
「俺から生まれたもの……」
呟いて。
彼は自分の指にはめられているものを眺めて。
「……もったいない、か」
また呟いて、彼は薄い笑みを浮かべた。

END

 

何なんだ、この文章は……。
ただ、彼の休憩時間の話を、と思っただけだったのに……(T-T)

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