三年前には
はっきり言って
こうして
隣りに並んで歩く日が来るなんて
思いもしなかった望んでは――いたけどな
次ナル願イ
いつものように、彼女の手を引いて。
彼はその公園へと、足を運んだ。
彼女が浮かべている笑みは、いつもと同じようで。
その実、まったく違うことを、彼自身、わかってはいたけれど。
けれど、ほんの少しだけ、頬が赤い気がするのは、なぜなのか、なんて、考えはじめて。
そうしながら、空がわずかに淡い桃色で埋められている場所へと、進んでいく。
きれいだね? なんていう言葉でさえ、去年までと同じで。
ひらひらと舞い降りていく花びらをつかもうと、手を伸ばすその仕種でさえも、同じで。
それでも。
何かが違うことを、知ってはいるけれど。
「優菜」
名前を呼べば、蒼い瞳は彼に向いて。
目の前で、微笑んでくれる。
その頬へと、空いている手を伸ばして。
彼はほんのりと赤いそこに、手の甲で触れた。
「赤いな、顔」
「え?」
「少し……だけど。風邪でも、ひいたか?
まだ、寒いし」
「う、ううん。平気」
「………」
「本当だよ?」
ただね?
続けられた言葉に、彼は瞬きをして。
それから、進み出した彼女に、手を引かれるようにしながら、歩き出す。
「優菜?」
「あの…だから」
「?」
「去年までと、違うんだなぁって、思ったら、その……」
「………」
「去年までは、その…。珪くんの隣りにいたいって、必死だったから。友達でしか、なかったし」
「…ああ……」
「でも今は…友達じゃ、ないでしょう?」
隣りまで歩を進めて。
その顔を覗き込めば。
思った通り、赤は、顔全体に広がっていて。
彼は歩を止めて、くすくすと笑い出した。
「け、珪くん?」
「真っ赤だ、おまえ」
「……だって…」
手は離されて。
彼女は両の手で、顔を覆い隠すけれど。
指を開いてしまっているから、赤は覗き見ることが、できて。
そんな彼女の頭を、ポンッと一つ叩いて、そばのベンチへと、進む。
まだ、桜の時季には、少し早くて。
空気もまだ、冷たくて。
それでも、蕾は綻びはじめていて。
気の早いものは、もうすでに、開いていて。
花びらを地面へと落とすものまで、あるから。
見ごろだと言われる頃は、人でいっぱいだろうからと。
今日、この日に、彼を誘ってきたのは彼女で。
卒業式が終わったあとの教会で。
小さな約束をした。
必ず、叶えることのできる、約束を。
「俺も…去年までは必死だった」
「珪くんも?」
「ああ。おまえ、いろんなやつに、優しいし。誰かに先、越されるんじゃないかって」
「わたし…知られてると思ってた」
「おばさんと会ってからは、結構、いつ言おうって感じだったけど」
「………」
「でも、やっぱり――怖かったから」
「ごめんね?」
隣りから見上げてくる瞳に、首を振って見せて。
彼は彼女を座らせたあとで、腰を下ろした。
あと数日もすれば、この空は桜色に変わる。
「けど。おまえが忘れててくれて、少し、ほっとしてたところも、あったんだ」
「どうして?」
「だって、そうだろ? あの日の約束があっても、なくても。おまえは俺のことを好きになってくれた。いつも一生懸命なおまえに、俺も惹かれていった。約束なんて、言わないままでもいいかもって。小さい頃に会ったことなんて、言わなくてもいいかもしれないって。そう……思ってたんだ」
不安そうな表情を浮かべた彼女の髪に、手を滑らせて。
後頭部に手を添えて、少しだけ、上向かせる。
そうして、唇を重ねて。
離れれば。
案の定、彼女の顔は、朱に染まっていて。
「でも、どっちでもいいけどな。今となっては」
「………」
「――遠慮せずに触れられるって、いいな」
小さく、耳元で囁けば、彼女は顔を赤くしたまま、下を向いて。
かわいいなんて呟けば、言わないで、と、声が届けられる。
望んでいた時間。
手にすることを諦めかけていた、時。
三年前には、思ってもいなかった、この時。
「…お母さん、毎日うるさいんだから」
「? 何て?」
「卒業旅行には行かないの? って」
「行きたいなら…行くけど」
「………」
「考えとくか」
「二人…だけ?」
怖々といった感じで紡がれた瞳に、ふっと笑みを浮かべて。
彼は立ち上がる。
次に願うのは。
この時が、長く続くこと。
教会で交わした誓いが、守れるように。
END
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