あかるい きれいないろ

そのすべてを並べて
端から端まで視線を滑らせて

そうしたら 微笑っちゃうかもしれないけど

結局は 手にしちゃうのかな?

でもでも わたしはあなたに
差し出すから

いつもの柔らかな笑みで
受け取ってください



そばにいるための 理由




「フルーツポンチでも作ろうか」
お昼ご飯を終えて、もうすぐ一時間。
そんな時に、急に言われたことに、わたしはどう反応していいのかわからなくて。
それでもお母さんは、わたしたちを急き立てる。
台所からリビングへとやってきて。
はい、なんて、千円札を一枚、彼の前に差し出した。
「珪は優菜と買い物。ソーダ水はあるから、果物を買ってきて。最低二つずつ」
「あ…うん……」
彼は答えて、受け取って。
その素直さに、お母さんは上機嫌で、にっこりと笑う。
お客様じゃなかったの?
そう、言いたいけど。
けど…きっと。
そう思ってるのは、わたしだけなのかもしれないから。
言うことはできないままで。
「尽は…何したい?」
「母さん……」
聞かれて、弟の尽は、呆れたように肩を落とした。
持っていたトランプを、床に置いて。
「混ざりたいならそう言えよ」
「違うわよ。フルーツポンチが食べたいの、私は」
「…オレ達三人が遊んでるのを聞いてて、うらやましくなっただけなんだろ? だから邪魔しようと思った」
「思ってない。食べたいものがあるから、作ろうって言っただけ」
「だったら一人で買い物行って、作れよ」
「………」
「…何だよ?」
「この頃の尽、やっぱり反抗期ね…」
「違うから」
「昔は私の言うことに、こうやっていちいち、突っ込まなかったのに」
「変だなって思ったら、突っ込むよ、普通は」
「それに比べて、珪はいい子よねー。何も言わずに、買い物行ってくれるんだもの」
「……オレと葉月を比べるなっての」
「とにかく、フルーツポンチは作るから! そうね…、尽はお母さんを傷つけたバツとして、掃除して」
「………」
「お風呂よろしくー」
「ちょっと、母さ…!」
「さ、気をつけて行ってきなさいね?」
尽の反論を封じ込めて、お母さんはまた、にっこりと笑みを浮かべてて。
そんな風に言われたわたしは、とりあえず彼の顔を見る。
お母さんから直接、電話もらったらしくて。
彼は今日、わたしの家に、足を踏み入れてた。
「おじさん、出張でいないから。淋しいって言われた、おばさんに」
やってきた彼を迎えたわたしに、彼は微苦笑でそう言ってて。
でも、決して、嫌そうじゃなくて。
むしろ、嬉しそうな表情してて。
彼のことを、よく知らない人が見たら、わからないかもしれないけど。
でも、嬉しいということは、わかったから。
ごめんね? とは言えなかった。
それで、尽はもちろん、喜んで。
台所で、仕事をしてたお母さんの要望もあって、リビングで三人で、トランプをしてたんだけど。
けど……。
「行こう、優菜」
彼の横顔を見ていたわたしに、彼の瞳が向けられて。
わたしは少し、混乱しながらも、頷いた。
そうすれば、当然のように、わたしの右手は、彼の左手に収まる。
彼の体温が届けられたことは、嬉しいのに。
お母さんと尽に見られてるっていうのが、ものすごく恥ずかしくて。
そんなわたしを置いて、彼は右手を床について、立ち上がる。
きちんと立ち上がってから、少し身体を屈めて。
わたしが立ち上がるのを、助けてくれて。
ちらりと横目でお母さんを見れば。
やけに嬉しそうな顔をして、まだそこにいた。
「行ってくる」
「そうして。優菜が迷子にならないように、しっかり、手は繋いでおきなさいよ?」
「お、お母さん!?」
「ああ、わかってる」
「珪くんも!」
わたしの驚きように、二人でくすくすと笑って。
それから彼は、歩き出す。
少しだけ引っ張られて。
納得行ってなかったけど、付いていく以外、わたしにはどうすることもできなかったし。
それに、何よりも。
二人で買い物に行けることが、嬉しかったから。
わたしもゆっくりと、足を動かしはじめた。
それに、尽も渋々、腰を上げて。
「できるだけ早く頼むぞ? 姉ちゃん、葉月」
「さぁな」
そんな弟から投げられた言葉に、彼は短い一言を紡ぐ。
むっとしたように、眉根を寄せた尽に。
彼は笑って、片手を上げただけだった。


スーパーに着いて。
彼がかごを持ってくれて。
くだものの、そのコーナーへと、足を進める。
色とりどりの、それを前にして。
わたしはようやく、口を開けた。
「ごめんね? お母さん、強引で」
紡げば、彼はわたしを見てくれて。
少し――驚いてるみたいだった。
「珪くん?」
「…べつに、謝ることじゃないだろ?」
「でも……」
「それに、俺、嬉しいから。こういうの…久しぶりで」
そう言って、彼はわたしから、手を離す。
その手は、丸い、オレンジ色のくだものを、収める。
「フルーツポンチって、何入れるんだ?」
言葉に、流されてしまったことを知って。
ほんの少しだけ、悲しくなる。
彼も、お母さんがしたことを、嫌だとは思ってない。
でも、わたしは嫌。
尽は、わたしが考えてるのと、お母さん達が考えてるのは、全然違うって、言ってたけど。
どう違うのかなんて、わたしにはわからないから。
ただただ、嫌だと思うだけ。
「優菜?」
「………」
「どうした?」
わたし今、泣きそうな顔をしてるかもしれない。
彼がちょっと慌てたように、頭を撫でてくれるけど。
「………」
何も言えずに、わたしは俯いてしまって。
――嫌って言えないのは、たったひとりであがいてるそのことを、知られたくないから。
彼に、反対してるっていう、そのことを、知られたくないから。
そんなことを考えていると。
ふわりと、暖かなものに包まれた。
「優菜?」
それが何かと気づいたのは、彼の声を、極々そばで聞いてから。
だからわたしは、本当に慌てて。
「け、けけ、珪くん!」
「ん?」
「だ、大丈夫だから! 離れて!」
腕を突っぱねて、どうにか彼から、身体を離す。
心臓はドキドキを通り越して、バクバクしてて。
そこを、思い切りよく、手で掴んで。
ぎゅっと、きつく、瞼を下ろした。
どんなことを考えて、あんなことしたのかなんて、わからないけど。
でも、本当に急には、やめてほしい。
とか、ぎゅーっと、胸の辺りの服を握って、思う。
軽く、抱き締めてただけかもしれないけど。
それでもすごく、恥ずかしくて。
「優菜?」
「くだものは、何でもいいと思うよ!」
彼の瞳を、きちんと見られなくて。
わたしはそう、声を上げる。
日曜日の、午後二時ちょっと過ぎ。
そんな時間のスーパーなんて、人が多いところなのに。
やっぱり…結構マイペースなのかな? 珪くんって……。
今まで、何度となく思ってきたことを。
今また、わたしは思って。
くだものに目を向けている彼の顔を見て、息を吐いた。
途端。
目の前に広がった色に、わたしは目を見開いて。
「オレン…ジ?」
そう、声を発して。
「大丈夫か?」
彼の、その声を聞く。
受け取って、「平気」と、言葉を綴って。
ちらと、彼の顔を見たら。
目が合った。
平気だと届けたのに。
彼はやっぱり、心配そうな表情をしていて。
それに、わたしは微笑を浮かべた。
こうして一緒にいられるなら。
べつにいいかな、とか……考えちゃうんだけど。
「聞いてもいい?」
「ん? どうした?」
「あの…お母さんが、珪くんを息子にしちゃったでしょう?」
「ああ。…だな」
「で、それで……」
「?」
「珪くんは、嬉しいんだよね?」
「ああ、嬉しい。おばさんも、おじさんも、優しいし。おもしろいし」
「うん…。そう思ってくれるのは、嬉しい。…ん、だけど」
「?」
「わたし、珪くんのこと、『珪くん』って、呼び続けてもいいのかな?」
「?」
彼の眉根を寄せられて。
わからないっていう顔をする。
それに少し、くじけそうになりながら、わたしは言葉を繋げていく。
「だ、だからね? わたし、珪くんよりも、誕生日、遅いでしょう? だから、珪くんがうちのもう一人の息子になっちゃったんなら、わたし、珪くんのこと、もう、そういう風に呼んじゃいけないのかなー…って……」
一気に言えば、彼は目を丸くして。
それからすぐに、ふっと笑みを覗かせたと思ったら。
彼にしては珍しく、声を出して、笑い出した。
「な、何で笑うのー!?」
聞いても、彼は答えてはくれずに。
わたしをちらっと、その瞳に映しただけ。
そう言えば、尽にもこの話をしたら。
彼と同じように驚いてから、笑ってた。
それから、わたしと、お母さん達が考えてるのは違うって言ってた。
けど…。
何がどう違うのかは、まだ、わからないまま。
「珪くん?」
彼の名を呼べば、彼は笑いを押し込めて。
それでも、嬉しそうな顔をして、わたしの手を取ってくれる。
「優菜」
「なぁに?」
「とりあえず、呼び方は変えなくていいから」
「? うん…」
「嫌なんだろ? 俺の名前、呼べなくなるから」
「………」
「だったら、おまえだけは、そういう風に思わなくてもいいから」
「…いいの?」
「ああ。俺も…そんな風には、思ってないし」
「そうなの?」
「ああ。だから、いいんじゃないか? べつに」
「でも、珪くんは嬉しいんでしょう?」
「まあな」
「なのに、そう思ってないの?」
「…理由が、ほしかっただけだから」
「?」
それ以上、彼は何も言ってはくれずに、くだものへと、手を伸ばした。
かごを、足元へと置いて。
教えてほしいと思っているわたしを、半ば無視して。
だからわたしも、何も言わずに、買い物に集中することにした。
そう、思わなくていいなら。
わたしはそう思わずに、彼の隣りにいられることを考えていく。
そう、決意すれば。
目の前に出されたのは、黄色いくだもの。
「これも平気か?」
問われて、こくんと首を縦に振った。
かごの中に入れられていくのは、鮮やかな色の、南国を思わせるものばかりで。
わたしはふっと、笑みを零す。
確かに、目に付くものは、そうだもんね?
そんな風に思いながら、わたしが手にしたものも。
彼と同じようなものだった。

 

また、オフの方から持ち出してみちゃった感があるのですが。
まぁ、読まなくても大丈夫ですし、放置ということで。
(尽本から、ちょこっと持ち出し)

二次創作書きさんにたった10のお題』より、お借りしました。
ということで、四つ目は『トロピカルフルーツ』。
お題って難しいなぁと。
今にして思ったりしております。

web拍手に置いてました。

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