周りにいる、同じようなことをしている、人たちより。
目の前に広げている、教科書とノートより。



隣りの 存在




わからないところがあるから、教えてほしい。
そう、電話で頼まれたのが、昨日のことで。
自分が行くと言い続けていた彼女に。
迎えに行くから、図書館にでも行こうと言い出したのは、彼で。
そうして、今日。
決めた時間に、彼女の家へと迎えに行って。
二人でゆっくりと歩いて、やってきた図書館は。
利用者の姿も、あまりなくて。
音もなくて。
そんな――独特の空気で持って、そこに在ったのだけれど。
「ここは?」
「こっちの……」
囁かれるように紡がれた問いに。
彼もまた、同じように、声を小さくして、返す。
時折、背後や、机の向こうを、見知らぬ人間が通っていくけれど。
彼女の視線の位置とか。
指の先とか。
問題を解くために、文字を綴るために、シャーペンを動かすために、それを持つ手とか。
そういうものの方が、彼には気になって。
仕方が、なくて。
「珪くんは、終わったの?」
急な問いかけと。
急に向けられた瞳に。
彼は少し、目を見開いて。
それでも。
「ああ」
と、短く、肯定の言葉を綴った。
夏休みの宿題、なんて。
早く終わらせるに、越したことはない。
なぜなら、それに手間取って。
彼女と過ごせるはずの時間を、削りたくもないし。
終わらせているからこそ。
こうして、彼女に教えるという行為も、取れるのだし。
「…そっかぁ……」
「?」
「わたし、教えてもらってばっかりだから。わたしも何か、教えられたらなーって」
「………」
「でも、終わってるんなら、仕方ないよね?」
微苦笑で言って。
彼女の視線はまた、ノートの上へと戻る。
問題集のそれを、写し取って。
小さく首を傾げて。
それから、自分の力だけで解こうとしているらしく、考え込んで。
数式を、書いてみて。
そして、自分なりに、答えを導き出すのだけれど。
「…?」
言葉もなく、彼女の瞳は、彼に向いて。
その瞳が訴えるのは、合っているかというもので。
自信のなさそうなその表情に、彼は小さく、笑みを浮かべた。
ミスを指摘すれば、彼女の瞳は、大きく見開かれて。
慌てたように、消しゴムを手にする。
それに、ほんのわずかに、声を漏らせば。
彼女の頬は、小さく膨れて。
けれどすぐに、その表情は笑みへと変わる。
そうすれば今度は、彼が首を傾げる番。
彼女の顔を覗き込めば。
彼女の瞳は、少し離れた場所にいた人間に向けられて。
その姿が、本棚の向こうに、隠れてしまってから。
「教えてもらえるのも、いいこと…なんだよね?」
そう小さく、彼女が呟いたから。
彼はその意味を、考えて。
もう一度、口元を笑みの形へと、戻した。

END

 

何となく、出てきたネタ。
教えるのも、教えられるのも、いいものです。
みたいな?(苦笑)

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