面と向かって、その言葉を紡げないから。
だから、遠まわしに。
いろいろな部分に。けど。
そろそろ、気づいてくれてもいいんじゃないか?
届ける言葉
彼女が髪形を変えたなら。
彼女が新しい服を着て見せてくれたなら。
彼は思ったことを口にする。
「似合ってる」
そう、届けて。
「好きだ、俺。そういうの」
加えて。
何度も、彼女が照れたことで赤くなった頬を見て。
微笑を浮かべる。
彼女が何か失敗して。
落ち込んでいる時は、彼は慰めの言葉を、口にする。
「仕方ない。おまえはおまえ…なんだから」
届けて。
「でもそういうの、俺。嫌いじゃないから」
加えて。
何度も、彼女の嬉しそうな笑みを見て。
彼もつられて、笑う。
けれど時々。
まだ……気づかないのか?
なんて。
離れていった彼女の背に、彼はぽつりと、言葉を落とす。
好きと言ったのは、彼女の見た目、すべての部分。
そして、センス。
嫌いじゃないと届けたのは、彼女の性格。
嫌いじゃないなら、好きだと。
そういうことになると、なぜ、気づかない?
それらすべてを考えたなら。
おまえのすべてを、好きだと届けているのに。
どうして俺の気持ちに、気づいてくれないんだ?
考えて。
思って。
彼は大きく、ため息を放つ。
少し。
ほんの少しでも、強引になってみようか?
考えて。
嫌そうな顔をしたその時に、取り繕えるように。
すぐに謝れるように、言葉を用意して。
それでも、受け入れてくれたなら嬉しいと。
考えながら。
気づいていながら、はぐらかしているような。
そういう感じは、彼女からは一切、受けないから。
彼女は本当に、気づいていないことになって。
彼はまた、ため息を吐く。
けれど。
彼女の声が、彼の耳に届いて。
彼は微苦笑を浮かべながらも。
ゆっくりと、振り向いた。
そばまで来ていた彼女は、彼の目の前で、足を止めて。
にっこりと、笑みを浮かべていて。
その彼女に、彼は微苦笑を届ける。
「珪くん?」
「………」
「どうしたの…?」
「まだ…気づかないんだなって、思って」
「…誰が?」
「おまえ」
「わたしが……何を?」
眉尻を下げた彼女に、ふっと笑って。
それから、彼女の手を取って、歩きはじめた。
END
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