| 毎年の楽しみになれば そう願ったのは
一昨年のこと
小さなうそ
『暇なら、来ないか? 俺の家』
そう電話が来たのは、用事のなかった日曜日。
本当は、タマちゃんと一緒に出かけるはずだったんだけど。
昨日の夜に、タマちゃんの方に急用ができちゃったからって、なしになって。
そのことを、彼の携帯にメールで送ったのは、今日の朝。
それから三十分ぐらいして、電話が来て。
彼と一緒に過ごせるのならって、頷いて――すぐに家を出てきた。
迎えに行くって言ってくれた彼に、断りを入れて。
「悪い。急で」
「ううん」
辿り着いて。
玄関を開けてくれた彼が発した一言に、わたしは頭を左右に振る。
会えないと思っていた日に会えるのは、嬉しいから。
それに、一緒に過ごせないと思っていた日に、過ごせるようになったから。
嬉しくないわけはなくて。
招き入れられて。
彼が背中を向けた時に、嬉しすぎて、笑みを浮かべてた。
そうして、廊下を歩いて。
「こっち」
階段を上がって、彼の部屋へ。
そう思ってたのに、彼がいるのは、リビングへと続く、扉の前で。
わたしは首を傾げてから、彼のそばへと歩いていく。
「見せたいものがある。おまえに」
「わたしに?」
「ああ」
手を引かれて、リビングへと入って。
それから、彼が瞳を向けた場所に、わたしも視線の先を投げれば。
透明な窓の向こう。
垣間見えたのは、ピンクで。
「あれ……」
「つぼみ、付けたから…今年。去年は、だめだったけど」
「………」
「昨日は、咲いてなかったんだけどな。今日の朝、見たら……咲いてたから」
「そうなんだ…」
「ああ。そうしたら……見せたくなった。おまえに」
視線を、彼へと戻せば。
そこには、少しだけ照れたような微笑があって。
わたしもありがとうと、微笑と共に届けた。
手が離れて。
彼はキッチンへと進んでいって。
飲み物を用意してくれるって言うから、それに甘えて。
わたしはリビングの、庭へと続く窓を開けて、そこに腰かけた。
――一昨年に、尽にもらった枝を、ここに持ってきて。
彼に見せたくて、持ってきて。
それから、彼の家の庭に植えさせてもらった。
咲いたら、見に来られるから。
その時だけは、彼と一緒に過ごせる、なんて。
そう考えてたのを、覚えてる。
でも去年。
彼は何も言わなかったし。
というより、実は。
毎日のことで、一生懸命になってて、忘れちゃって。
今さっき見て、思い出したって言うのが、本当のところ。
「ごめんね」
ピンクの花は、わずかしかなくて。
それでも綺麗で。
わたしはそう、言葉を落とした。
春が近づけば、自然と思い出すかなぁとか、思ってたのに。
すっかり忘れてしまっていたことが、くやしくて。
覚えていなかったことが、悲しくて。
彼にも言ったっけ、なんて思いながら、窓の縁に、頭を預ける。
覚えていたなら、いろんな話もできたのに。
覚えていたなら。
たくさん。
同じ時間を過ごして。
同じ思いを、抱けたかもしれないのに。
「どうした?」
声をかけられて、振り返って。
湯気の立つカップを差し出してくれた彼に、笑みを浮かべた。
忘れてたから、謝ってた。
なんて……言えなくて。
「一昨年のこと、思い出しながら、眺めてたの」
そんなうそを、吐いてみる。
彼は大きく目を見開いてから。
楽しそうに、笑って。
わたしの隣りに、腰を下ろしてくれた。
END
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