その歌はとてもよく知っていたし
その意見も もっともだとは思うけど
俺にそれを言われても
どうすることも できないから
初秋の日に
♪ かきねのかきねのまがりかど〜
たきびだたきびだ おちばたき〜
庭で急に歌い出した彼女に、視線を向ける。
窓を開けたそこに腰かけて。
足を庭へと投げ出して。
♪ あーたろうか
あたろうよ〜
なんて、まだ歌っていて。
「きたかぜぴーぷーふいている〜…なんて、普通なら歌っちゃいそうな時季なのに!」
歌い終わった途端。
そう声を上げて、立ち上がって。
ばっと、俺を振り返った。
「この暑さは何!?」
俺をぴっと指差して。
彼女はそう、怒っているような表情を向けてくるけれど。
俺はただ。
「さぁ…?」
と、声を上げただけ。
「こんなにあっついのに、衣替え! 見た?
みんな長袖、折り曲げてんだよ? 長袖なんて着なきゃよかった、なんて、みんなが言ってるんだよ?
僕だってそうさ! そう思ったさ!」
「………」
「今日、衣替えだろ? なんて言いながら、僕の部屋に入ってきた尽を恨んだよ!」
はいはい、なんて思いながら、テーブルに視線を落とした。
付き合ってられない。
それが本音。
「こら! 呆れないの!」
「無理」
「無理じゃない! だって君だって、袖折ってんじゃん!」
「……まあな」
「だったらわかるでしょ? 個人に任せればいいじゃん!
衣替え!」
「…そう言うわけにも、いかないんだろ?」
「そうやって、世間体を気にするんだよね。大人ってやつは」
肩の高さで手を水平にして。
上へと向けて。
わずかに肩をすくめながら、彼女は「やれやれ」なんてぼやいてた。
確かに――それは思う。
一週間、期間は与えられているけれど。
それでも、早めに終わらせよう、なんて考えている人間は。
初日から、制服を変えた。
夏用から、冬用へ。
俺も彼女も、その一人だけれど。
気温の高さに、袖を折っていた。
男子はジャケットを脱いで。
「女子の制服はさ。折りにくいんだよ、袖。結構厚いから。だけど、そうも言ってられないっしょ?
汗だくで授業受けるよりはいいんだから!」
エアコン、付いてただろ?
とは思ったけれど。
それでも。
授業中、袖を元に戻さなかったことを、思い出した。
眩しい光を遮断するために、カーテンを引いて。
それでも、袖はそのまま。
折ったまま。
「朝と夜は、さすがに冷え込むけどさ。でも日中は、それほどでもないじゃん?
逆に暑い」
「………」
「今は秋! 夏じゃないのに!
ものすっごく、暑い!」
「………」
当たり散らしている彼女の背から、視線を背ける。
そうは言うけれど。
こればかりは、どうしようもない。
わかっているから、彼女は当たり散らすのだろうけれど。
その矛先が俺に向けられては、たまらない。
「こういうはっきりしない時季って、あんまり好きじゃない!」
「………」
けど、秋自体は好きなんだ、こいつは。
紅葉を見に行けば、必ず足を止めて。
樹を見上げたまま、動かなくなるから。
それを見ていれば、「首痛い…」なんて言いながら、下を向いて。
首が痛くならないように。
上を向かなくてもすむように。
どうにかして、その樹を見ようと、試行錯誤する。
それを知っているから、俺は小さく息を吐いて。
立ち上がった。
彼女は俺に気づかないまま。
空に向かって、叫んでいて。
そんな彼女に背を向けて。
俺は真っ直ぐに、キッチンへと歩く。
夕陽もそろそろ、沈むから。
空はもう、オレンジ色をしているし。
彼女を黙らせるには、きっと。
考えて。
彼女のためにと買ってきたカップに、それを作って、注いだ。
テーブルへと戻れば。
彼女はまだ、空を見ていて。
言葉は発さずに、ただ見ているだけで。
「…綺麗……」
何かを言ったと思ったら、そんなこと。
それに小さく、俺は笑う。
「気温差が大きいからだろ?」
「………」
振り返った彼女は、眉間にしわを作っていて。
「そんなこと、知ってます…」
そう、小さく呟いてた。
けど、俺が持っていたカップを見て。
ばたばたと慌てて、リビングへと戻ってくる。
「何?」
「ココア」
「ホント?」
「本当」
靴を脱いだ彼女に笑いながら、テーブルの上にそれを置く。
これから気温が下がるだろうし。
何より、彼女は熱いものを飲むことはできないから。
それを考えると、ちょうどいいのかもしれなくて。
「ありがとう」
「べつに」
「素直に受け取りなさい!」
「…はいはい」
答えれば、彼女は大きく頬を膨らませて。
それにも俺は、笑みを零す。
これから、寒くなるから。
彼女がここへと足を向ける回数も。
去年のように、増えるのかもしれない。
そんなことを考えながら。
カップの中に、必死に息を吹きかける彼女を見て、笑ってた。
END
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