あなたに話しかけていた。
理由は簡単。
初めて会った時に、あなたと仲良くなりたいって、そう…思ってたから。
だからあなたに話しかけるの。
わたしが話しかけているっていうことをわかってもらうために。
あなたに話しかけているんだという、そのことを――わかってもらうために。
あなたの名前を、呼んで。
謝罪
「葉月くん!」
名前を呼んで。
振り返ってくれたことに、ほっとする。
笑顔が浮かんだのは、そのせい。
「どうした?」
「どこ行くの?」
教室を出ていこうとしていたから、わたしは呼び止めたわけだけど。
首を傾げて問えば、彼は目を見開いて。
それから小さく、屋上って答えてくれた。
購買部に寄ってから、屋上に行くんだって。
「お昼?」
「ああ」
「………」
「どうした?」
「あの、その……」
問われて、少し迷う。
思いついたこと。
それを口にしていいのかなって。
彼とは何度も休日に出かけて、仲良くなったとは……思うんだけど。
わたしは――あなたの友達に、なれていますか――?
「一緒に……」
口にしかけて、最後まで言えなくて。
顔を俯けた。
勇気が出ない。
わたしは――邪魔じゃないですか――?
そばに――いてもいいですか――?
ぎゅっと拳を握る。
と、上からため息が降った。
見れば、彼は少し怒った風で。
わたしは、目を細める。
それから、笑顔を作った。
わたしはまだ、彼の隣りにいてはいけないのかもしれない。
ううん、隣りなんて、図々しい。
そばにいては、いけないんだ。
「ごめんね? 引き止めて」
それじゃって綴って、背を向ける。
けど。
「先、屋上行っててくれ」
「え?」
「食うんだろ? 一緒に。昼飯」
言い放って、手を挙げて。
彼は廊下を歩いていく。
「うん!」
その背中に大きく頷いて、わたしは教室の中へと舞い戻った。
自分の机へと急いで戻って。
お母さんが作ってくれた――わたしも少し手伝ったけど――お弁当が入った巾着を手にする。
「優菜ー! お昼どこで食べるー?」
そう、友達が声をかけてくれたけど。
わたしはそのそばへと寄りながら、謝罪の言葉を口にした。
「ごめん。今日、一緒に食べられないの」
「何で?」
「え? その…葉月くんと……食べる、から」
言えば、なっちんは固まってしまって。
わたしはひとりでおろおろしだす。
「ご、ごめんね?」
もう一度言って。
大きなため息を受け止めた。
「優菜」
「なぁに?」
「葉月のこと、そんっなに、好き?」
力を込められての問いに、わたしはコクンと小さく頷いた。
顔は真っ赤だったんじゃないかな?
熱かったから、顔。
それからまた、ため息を受け止めて。
「アタシらのことはいいから、早く行きな」
そう、何かを――わたしを? ――追い払うように手を動かしてくれたなっちんに、ありがとうと届けて。
わたしは教室をあとにした。
先に行っててって、あなたが言ったから。
だから、扉のところですれ違った友達にも、べつに食事を摂ることを短く告げて。
わたしは屋上へと足を運ぶ。
あなたより先に、辿り着いて。
「遅い」って、冗談めかして、言ってみたいから。
あなたに話しかけているのだと、それを伝えるために。
あなたの名前を呼んで。
あなたに微笑みかけて。
あなたが微笑み返してくれることを期待して。
あなたのいろんな表情を見たいから。
知りたいから。
だから――少し、意地悪したくなるの。
そんなわたしを――許してください。
祈りながら、青の広がる空の下。
わたしは腰を下ろした。
あなたが来るんだろう、扉を視界に収めて。
あなたの綺麗な髪に、光が反射するその時を待ち構えながら。
その瞬間に、わたしはあなたに、少し意地悪をします。
だからどうか――嫌わないで、わたしに微笑い返してください。
祈りながら、願いながら。
ノブが回されて、あなたがここへとやってくる、その時を。
あなたが好きだから。
あなたを、一番に想うから。
あなたを一番に想っているから。
あなたのいろんな表情を見たいと願うんです。
だから、いつでもあなたのそばにいたいって、そう、思うんです。
ノブが回されて、少し重い扉がこちらがわへと押し出される。
見えたのは、長身の影で。
それでもすぐに、太陽があなたの姿だと教えてくれたから。
「葉月くん! 遅い!」
わたしはあなたにそう、紡いで。
驚いたのか、目を丸くさせたあなたに微笑んだ。
「…悪い」
小さな謝罪の言葉は、控えめな笑みから発されて。
わたしはますます、笑顔を濃くして。
そばへとやってきてくれる、あなたを待つ。
あなたが好きだから。
あなたを、一番に想うから。
あなたを一番に想っているから。
あなたのいろんな表情を見たいと願うんです。
だから――あなたに、小さな意地悪をしちゃうんです。
こんなわたしを、あなたは――許してくれますか?
END
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恋愛感情、最初からあり、という設定なんですが。
特に気にして書いたことないなぁ、と思い出しまして。
だから書いてみた次第。
思い出したら、どうしても書きたくなった、というのが本音です(笑)。