彼に触れるのは、好き。
彼に触れられるのも、好き。

でもやっぱり。
彼と一緒に笑いあうことの方が。
好き。



好き




繋いでいる手から、想いが伝わりそうで、怖くなる。
けれど。
それをやめてしまうことは、嫌だから。
手は、繋いだまま。
「珪くん」
「ん?」
瞳を向けてくれた彼に、嬉しくなって。
わたしは笑みを浮かべて、彼を見る。
きゅっと手を強く握って。
「かわいいね?」
そう、言葉を零した。
目の前では、ヤギの親子がこちらを見ていて。
何かを互いに知らせるように、顔を見合わせる。
それと同じように、わたしも彼を見て。
彼もわたしも見てくれた。
それで、二人で笑い合う。
――この瞬間が、すごく好き。
「ふれあい広場…?」
「ここのことだね。ウサギとか…ハムスターとか、触れるみたいだよ?」
「へぇー…」
小さな門を彼が押し開けてくれて。
彼に続いて、中へと入る。
休日だから、親子連れの多い、そこ。
わたしたちと入れ違いで出ていく子供たちの笑顔に、ついつられて。
笑顔で手を振ってしまった。
「どこ、行きたい?」
問われて、彼の顔を見て。
それから、広場の中を見回した。
そばにはさっきまで見ていた、ヤギの小屋。
奥にはウサギが放し飼いにされていて。
左奥には、ハムスターに触れる場所。
右奥には、カメの姿が見えて。
「……ヒヨコ?」
右手の看板に、わたしは声を上げた。
「ああ…。この声、ヒヨコの鳴き声か」
言われて、瞳を瞬かせる。
耳に届いた声は、常に「ピーヨ。ピーヨ」って言っていて。
「ピヨピヨ、じゃ…ないんだね」
「…みたいだな」
どちらともなく歩きはじめれば。
そこがいいと言ったわけでもないのに、黄色い小さな生き物がたくさんいる場所に来ていた。
手を伸ばして、捕まえるわけではなくて、足元から救い上げて。
彼はわたしの手の上に、その小さな生き物を乗せてくれた。
黄色い羽に覆われた、ヒヨコ。
オレンジのくちばしを開くわけでもなく、鳴き声を上げて。
小さな首を、傾げていた。
それに、わたしは笑みを浮かべて。
彼の指が、小さな頭を撫でる。
目を細めたのに、みんな同じなんだ、なんて思ってた。
わたしも、彼に頭を撫でてもらえると、嬉しいし。
猫さんたちも、こんな顔をしていたし。
「気持ちいいのかな?」
「?」
「撫でると、目がトローンって」
「ヒヨコ?」
「そう。この子」
離れてしまった彼の指先の代わりに、わたしは親指を伸ばして、撫でてあげる。
足を折って、座ってしまったその子は。
ちょっと眠そうに、瞼を閉じていて。
けれどすぐに、その姿はわたしの手の上から消えてしまった。
追えば、その姿は彼の手の中で。
「珪くん?」
呼びかけても、返事はなくて。
その子はたくさんの同じ色をした子たちの中に優しく置かれてしまって。
わたしの手は、彼の手に捉えられる。
「珪くん?
どうしたの?」
手を引かれて、広場の外れまで歩いて。
ようやく止まってくれた彼に、わたしも足を止めた。
「珪くん?」
呼びかけて。
「……何でもない」
そんな言葉が返ってくる。
首を傾げても、それ以上の言葉は返らなくて。
代わりに、手にわずかな、痛み。
だからわたしも、手に力を込めた。

彼に触れられるのは、好き。
触れるのも、好き。
彼と一緒に歩くのも、好き。
話すのも好き。
名前を呼ばれるのも、好き。
もちろん、呼ぶのも好き。
だけど。
「珪くん」
「ん?
どうした?」
一緒に笑いあうことが。
一番一番、好き。

END

 

詩で終わらせようかとも思ったんですけど。
とりあえず、出てきたので、書いてみたら、こんなことに。

ヒヨコは小さくて可愛いので。
ふれあい広場とかに行ったら、そこにずーっと、いたりしてます。
…樹は(聞いてない)。

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