それを見れば
いかに几帳面かが わかる

それを読めば
優しさがにじみ出てくる

あいつらしい
そう思わずには いられなくて

不意に微笑が零れた



すべてが繋がるという その事実




その日にやることと言えば、世間ではいろいろあるのかもしれないけど。
俺だけの家の中では、そんなになくて。
おせち料理も、結局、何も食べずに、その時間をぼんやりと過ごしていた。
朝だって。
おはようを言う相手もいないから、寒いと零しただけで。
でも。
『あけましておめでとうございます』
というその文面に、手は止まってしまっていた。
数少ない、年賀状の。
その中でも少なくなる、友達からのものに混じって。
彼女のものはあった。
『昨年はお世話になりました。今年もよろしくお願いします』
書き出しは、去年と同じで。
それでも。
『珪くん、おせち食べないって言ってたから、四日に、持っていくね?』
そんな文面に、笑みが零れた。
その日は、俺が彼女を、家に誘った日で。
それを彼女が忘れていないということが、嬉しかった。
そして、これを書いたのが、誘った日よりもあとだということがわかってしまって。
俺はくすくすと、声を出して、笑ってしまっていて。
今すぐにでも会いたいと、そう思ってしまって。
携帯を手にする。
彼女の携帯番号を、ディスプレイに映し出して。
電話をかけて。
きっちり、二回のコールのあと。
『もしもし? 珪くん? どうしたの?』
繋がった途端、そう、声が届けられた。
「あけましておめでとう」
『あ! うん。おめでとう。それで?』
「初詣…行かないか?」
今日という日。
会う理由があるとすれば、それだけで。
それしか、なくて。
口にした俺に、彼女はすぐに、頷いてくれた。
『うん! 行く』
「じゃあ、迎えに行くから」
『ゆっくりで、お願いしていい?』
言葉に、二度、瞬きをして。
それから、理由はわからないまま、肯定の言葉を綴る。
ほっと息を吐いたのが、受話器越しに聞こえて。
『じゃあ、あとでね?』
彼女のその言葉に、通話を終えた。


理由がわからないまま、できるだけゆっくりと。
それでも、心は急いていたらしくて。
結局、彼女の家に着いたのは、いつも迎えに来る時と、同じ時間を費やしただけ。
玄関の扉の前で、息を吐いて。
大きく、息を吐いて。
どうするか考えてから、チャイムに手を伸ばす。
一度だけ鳴らせば、玄関の向こうは、慌ただしくなって。
「はい」
なんていう言葉と共に顔を見せたのは、彼女の弟。
「早かったじゃん」
驚くような表情も見せずに、そう零した。
「姉ちゃん、もう少しかかるからさ。上がって待ってろよ」
「いや……、いい、ここで」
「んじゃ、座ってろよ。そういや、葉月って、一人暮らしだよな?」
何を聞くんだろうと思いながら、こくんと頷けば。
尽はにっこりと、笑みを浮かべた。
それを見ながら、家の中に入って。
玄関先に、腰を下ろす。
「おせち、食ったか?」
「いや…」
「雑煮は?」
「食べてない」
首を振って、否定して。
そうすれば、尽からは、ふーんっていう、微妙な反応。
「んじゃ、朝、何食ったんだよ?」
「べつに。いつもと…同じ」
「食ってくか? 正月らしいもの」
「…いや。迷惑だろうし……」
「んなことねぇって。あ、じゃあ、持ってくか?」
その申し出にも、首を振ると。
尽は少しだけ残念そうに、肩を下げて。
それから、身体を屈めた。
俺と、視線が同じ高さに、なるように。
「姉ちゃんも結構、手伝ってたけど?」
言葉に、一瞬だけ、肩は震えたけど。
「四日に…持ってきてくれるって、書いてあったから……」
そう、言葉にして、送り出せた。
「何に?」
「年賀状」
「………」
「…どうした?」
「四日、葉月んチに行くのか…」
ぽつりと呟いた尽に、首を傾げて。
それから、それが何かを聞こうとしたところで。
「尽ー! 珪くんだったー?」
彼女の声が聞こえて、俺は腰を上げる。
尽も立ち上がって、答えを送り出して。
「用意、できたのか?」
言いながら、階段に寄って、上を覗き見てた。
「ゆっくり下りてこいよ。下駄、出しといたから」
「ありがとう」
「ったく。下で着替えればいいのにさー」
「うるさいの」
小さな言い合いに、くすくす笑っていたのに。
それは、階段を下りてきていた、彼女の姿に、形を潜めて。
「ゆっくりって言ってたのは…このためか」
零した俺に、彼女は頬を、赤く染める。
「ご、ごめんね? せっかくだし…。それに」
「…それに?」
「………」
「?」
顔を覗き込めば、彼女は何も言わずに、笑って。
「い、行こう?」
そう言って、俺の手を支えにして、下へと下りた。

END

 

20041229のイベントのペーパーに載せておりました。
年賀状…って考えて、書いた話。
それがなぜか、元日の話になったのでした。
仕方ないのかもしれないけど。

題名は、もっと短かったんですけど。
何かもう、これじゃないといけないみたいに思ってて。
結局、長くなっちゃったのでした(汗)。

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