それは 俺のせいじゃない

あいつが決めて
あいつが勝手に やったこと

そう 思っているのに
どこかで やっぱり

俺のために そうしたのかもしれない

そう…考えてしまった




Spielgefährte





週のはじめ。
その日に、家への帰路を選び取って、歩いていた俺の目の前に。
その人は…現れた。
最初は、機嫌よさそうだったのに。
そんな感じで、呼び止められたのに。
「そういえば…」
なんて、視線を鋭くしてからは。
思い当たる節もないことを、その人は俺へと、投げてきた。
「葉月ちゃんが何か言ったんでしょう?」
「? 何が…ですか?」
「とぼけないの! もう! 手際もよくて、お客さんの受けだって、上々だったのに!」
「…だから……」
「まぁ、こんなこと、今更言っても仕方ないんでしょうけど!」
言い終えたのか、腕を組んで。
それから、花椿せんせいは、俺に背を向けた。
その背を見ながら、俺はただ、眉根を寄せる。
何のことを言っているのか、わからない。
思って、俺は足を進め出した。


のだけれど。
「………」
「何絶句してんの?」
聞かれて、とにかく現状を飲み込もうと、見上げてくる瞳を見ながら思う。
ここがどこかと聞かれたら。
俺のバイト先…とでも言ったらいいのか。
とにかく、スタジオで。
で、今はその、仕事中。
――の、休憩時間で。
その時に現れるのは、決まって……隣りの喫茶店、『ALCARD』の店員。
と、いうことは。
「はーづきくーん!」
「……おまえ…」
「何?」
「バイト先、違うだろ?」
「ううん。今日から隣り」
「………」
「びっくりさせようと思ってたから、言うの遅れたけど」
言葉に。
彼女の額を、手の先で押す。
と、小さく、彼女の身体が傾いで。
「ちょっと痛い…」
彼女はそこを抑えて、呟いていた。
「そういうのは、言っておけ」
「あ、混乱したんだ?」
「…した」
「それは嬉しい」
「嬉しくない」
「えー? 嬉しいよ。おもしろいし」
「おもしろくない」
頭を叩いて、歩き出す。
そうすれば、すぐに後ろに、足音が近づいてきて。
ペシッと、背中が叩かれた。
それに足を止めて、振り返れば。
「とにかく、僕の新しいバイト先は、隣り」
「………」
「何?」
「かわいい子が入ったって、聞いてた」
「…今日?」
「ああ」
「今日入ったの、僕だけ」
「………」
「んじゃ可愛いって、僕のこと?」
「おまえは違う」
「何でそうやって、否定するの!?」
声を上げられて。
俺は微笑を零す。
花椿せんせいが言っていたのは、このことか。
思いついて。
大きく頬を膨らませている彼女の頭の上に、手を置いてみて。
「…重い……」
「だろうな」
「?」
「重くなるようにしてる」
「あのね」
押え込んで。
その手を退かそうと、手を伸ばしてきた彼女の手を取る。
それに、彼女の口から発せられるのは、離せとか、そういったもので。
「あのねー、あと君が飲み切ってくれれば、僕は戻れるんですけど!」
「そう言えば、仕事で来たのか、おまえ」
「さっき、配達しに来たでしょうが! 聞いてなかったの?」
「そうか」
「そうかって何!?」
ギャーギャーわめく彼女に、笑い続けて。
それで、いかに今まで、自分が緊張し続けていたかを知って。
「とにかく、学校だけじゃなく。日曜日だけじゃなく。あと、週二回、こうやって遊びに来てやるからね」
そう言った彼女に。
笑顔を浮かべたまま、手で追い払うような仕種を見せたけれど。
「サンキュ」
踵を返した彼女の背に、そう、小さな声で、届けた。

END

 

玲のバイト変え話。
『Bridge』を読み返したら、書きたくなっちゃったのでした。

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