どうしたいのか
わからない

本気で
わからない

オレのものじゃないのに

そう――わかっているのに




それゆえに





廊下で呼び止めれば、彼女はすぐに、振り返って。
「あ、龍太郎」
そう、オレの名前を紡いでくれる。
のに。
「どこ行ってたんだ?」
「? 何で?」
「一緒に帰ろうと思って。教諭室、覗いたんだけどな」
「ああ…ごめん。印刷室」
「印刷室? 何でまた」
「これ。明日の編入試験のやつ。数学のテスト、作ったんで、コピー取ってきたの」
廊下には誰もいなくて。
オレと彼女しか、いなくて。
彼女の態度は、本当の姿。
とはいえ。
この前から、薄々感じている、これは。
この、違和感は。
「…一人で、か?」
言えば、彼女はわずかに、目を見開いて。
それから。
「……まぁ、いいじゃん」
そう、踵を返して、歩いていく。
――オレのものじゃない。
だから、彼女が誰と何をしようと、関係ない。
関係ない……はずなのに。
「橘と、仲いいんだってな」
「……この前から、それにこだわりすぎてない?」
「いいから、答えろ」
「…いいけど?」
「………」
「仲はいいです」
「……知ってるのか?」
「知ってるよ?」
即答での言葉に、目を見開く。
少しだけ振り返った彼女は、首を傾げて、オレを…見て。
対等になった?
そうは思っても。
負けている気が、拭えない。
追いかけるのは、嫌なのに。
先を歩いて、いたいのに。
「あいつには、優しくされても、いいのか?」
「……わかんない」
「………」
「わかんないけど…それでも、嫌じゃない」
「柊…」
名前を呼べば、彼女は小さく、笑みを零して。
また、歩き出す。
遠くなる。
どこかで、そう、声がする。
「優しいんじゃないのかな。どっちかっていうと」
「………」
「橘と一緒にいる時間は、優しいけど。すごく、あったかいけど。橘自体は……優しくはない気がする」
「……そうか」
「龍太郎は…同情の色が、濃い気がする」
「…え?」
彼女を見れば、見せられているのは背中ばかりで。
それでも、顔を俯かせているのは、わかって。
「腫れ物に触れるような感覚で、接してきてる気がする」
「そんなこと……」
「それに。私は、一番じゃないでしょ?」
言われて。
視線を下へ。
オレだって、彼女と同じ。
彼女を見て、接して。
思い出すものがなかったかと言われれば。
何も、答えることができない。
「それは…おまえだって、同じだろ?」
「そうなんだけど。けど……」
言葉は消えて。
足音も消えて。
彼女の足は、止まっていて。
直後。
彼女の顔は、外へと向けられた。
窓の外。
……遠くなる。
また、声。
かまわない、なんて。
そんなことを思っていたのは、ついこの間まで。
今は。
今は。
できることなら。
あがきたい。
――のに。
確かに彼女は、オレの一番ではなくて。
だったら、あがくのも、どこかおかしく思えて、仕方がなくて。
「どうすればいいのか…わからないんだ。私」
ポツリと落とされた言葉は。
オレの気持ちでさえも、代弁しているようで。
オレは深く、息を吐くことしか、できなかった。

END

 

傾いていくー…。
おかしいなぁ、こんなはずでは……。
まぁ、それもまた、よしということで。

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