やっぱり そろそろ?
なんて少しずつ
考えはじめてた
soon
何も言わずに、ただ黙って歩き続ける彼の後ろを。
私も黙って、付いていく。
何か言いたいけれど、言えない雰囲気だし。
というより。
彼が何を考えているのかが、いまいち、わからなくて。
何を言ったらいいのかが、わからない。
さっき。
学校を出る前に、彼に言ったことは、あっているはずで。
だからこそ、彼が悩むことは、ないはずで。
なのに彼は、何かを考え続けている。
彼の一番は、別の女性で。
そのはずで。
私では、ないはずで。
だから私は。
私のことを、一番に想ってくれる『彼』に。
心を砕きはじめているのかもしれない。
『彼』との優しい時間を。
手放す気は。
今の私には、ないから。
「………」
視線を俯けて、息を吐く。
今、答えを出せと言われたら。
きっと私は、『彼』の方を取るだろう。
そういう…こと。
彼との時間も、大事だけれど。
彼は私を、見てはいないのなら。
まっすぐに私のことを見てくれる『彼』を取るのは。
きっと、当然のことなのかもしれない。
でもまだ。
答えは出さなくてもいいのかもしれないから。
だからこそ、今の私には。
彼に声をかける権利は。
ないのかも、しれなくて。
そう思ったら、足は止まってしまっていて。
昼間に、太陽によって熱せられたアスファルトの熱が、靴底の向こうから襲ってくるようで。
でも、そこから動けなくて。
一つ、息を吐く。
と。
「先生!」
後方からの声に、大きく目を見開く。
顔を上げれば、彼も前方で足を止めて、こちらを振り返っていて。
それに倣うように、後ろを振り返れば。
『彼』が、そこにはいて。
「…橘……」
呼べば、バッグを肩から提げていた『彼』は、足早に、そばまでやってきて。
そして、ぐいっと、私の腕を、引っ張ってくれた。
頬が胸に当たって。
その反動で、顔を上げれば。
『彼』は、私を見てはいなくて。
「…橘」
「終わったんで、まだいるかなって…覗いたら。いなかったから」
「………」
「で、帰ったのかなって外見たら。――いたから」
走ってきた。
告げて。
それでも、『彼』の視線の先は、変わらなくて。
睨むような瞳に、少し、怖ささえも、抱くけれど。
それは、私に向けられたものじゃなくて。
「負けないっスよ、俺」
「………」
「橘」
「柊は、渡さない。誰にも」
怖い。
とは思う。
でも。
嬉しい。
の方が、大きい。
『彼』のそばにいるのは、とても、優しくて。
『彼』の言葉を止めるために、名を呼んだのに。
止めたかったのに。
今は、何も言いたくはなくて。
でも、彼のことを考えたら、どうすればいいのか、わからなくて。
やっぱり、ただ黙って、『今』が過ぎる、終わることを、望むしか――できなくて。
視線を下げれば、腕を掴んでいる手の力は、強くなる。
それを感じていれば。
足音が一つ、遠ざかっていった。
END
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