わたしが 彼といる理由?
そんなのは 二つだけ

わたしが心地いいから
わたしがそばにいれば
彼がひとりにならないから

ね?
二つだけ
それだけで 充分でしょう?




その理由





やっぱ、ここだった。
まだ、かろうじて午前と言える時間。
わたしはその姿を前に、大きく息を吐いてた。
SOSの電話が飛び込んできたのは、二十分前で。
わたしは案の定、部屋で宿題と格闘してたわけで。
それを中断させられて、わたしはここに、来てるわけで。
「………」
怒ってるんだ、わたしは。
思いながら、夢の中にいる彼の耳元に、口を近づける。
途中で、もちろん、大きく息を吸い込んで。
「おっきろー!」
大きな声で、叫んでみれば。
彼は急いで、ガバッと身体を起こした。
それが何だか、おもしろくて。
わたしはお腹を抱えて、笑っちゃったり、してたんだけど。
「…田端?」
「あ、おそよう、葉月くん」
「………」
「じゃなくて! 君、今日、撮影でしょう!?」
ぴっと指を差して言えば。
彼はその指先を見つめたあと。
小さく、あ…と声を上げる。
「時間…」
「一時間ぐらい、過ぎてます」
「…どうして、知ってるんだ?」
「電話が来た」
「………」
「君のマネージャーさんから。珍しく」
「………」
「またなんか、文句言われるのかなーって思ったら、SOSの電話」
「………」
「三十分経っても、葉月が来ないんだけど、どこにいるか、知らないかって。家の電話にも出ないし、携帯にも繋がらないって」
「…悪い」
「本当だよねー。てなわけだから、英語の宿題、手伝ってね?」
「……わかった」
徐々に項垂れていっていた彼も。
短く息を吐いて、立ち上がった。
髪をかき上げて、埃を払って。
「じゃ、行くか」
そんな彼に言えば、眉根は寄せられる。
「どうして、おまえが?」
「連行してくるように、言われた」
「………」
「あとは、君の監視役?」
「…いらない」
「スタッフさんの頼みと、君のその言葉。どっちが比重が重いかと聞かれたら、やっぱスタッフさんだよね? 今度、奢ると言ってくれたし」
「………」
「でもそれは、辞退したんだけどね? ALUCARDでたくさん頼んでくださいって、お願いした。そうすれば、時給、少しは上がるだろうし」
彼の呆れたような吐息に、わたしは笑みを零して。
両手を、身体の後ろで組んだ。
なぜだか、安心するんだ。
彼の呆れたような、表情を見ると。
本当に気を許した相手のことしか、そうしないような気がするから。
笑われるのは嫌でも。
呆れられるのは、まぁ許そう、みたいな気さえ、する。
この頃はね。
「さ、行こう。今すぐ行こう。待たせるのは悪いから。さっさと行こう」
「…はいはい」
歩き出した彼の背中を押して、少しでも早く行こうと試みて。
なのに、彼は逆に、体重を掛けてくるから、重くて、どうしようもなくなって。
だからいつものように、彼の腕を引っ張ることにしようと思ったんだけど。
背中を押すことをやめれば、彼はわずかに、バランスを崩す。
「…何やってんの?」
「………」
「気、緩み過ぎじゃない?」
「……煩い」
八つ当たりのように叩かれて。
わたしは眉根を寄せた。
お返しで、手を伸ばして、後頭部を思い切り叩いて。
逃げるみたいに、走り出す。
けどすぐに、捕まるんだけど。
「今日の夕飯、おまえのおごり」
「先にぶったのは君!」
「おまえが急にやめるから」
「僕は悪くない!」
「悪い」
彼との言い合いは、楽しい。
本気じゃないって、わかってるし。
わたしの言葉だって、本気じゃないってこと、彼は知ってるから。
「財布、持ってきてるんだろ?」
「…どうしてそれを聞くんですか?」
「夕飯」
「ヤダ。奢らない」
「おごってもらう」
「その前に帰るもん。宿題しに。…嫌だけど」
「逃がさない」
「……逃げ道は、何重にも」
「延期は、いくらでも」
「………」
黙り込んで、彼を睨めば。
彼からは、笑み。
勝てないのが、悔しくて。
言葉を探すのに、見つからなくて。
「でも、礼はしないとな」
「? 何の?」
「捜して、起こしてくれた、お礼」
「…じゃあ、帳消しでいいじゃん」
「…でも、その礼は、手伝いだろ? 宿題の。おまえがそう言ってた」
「…あ……」
「どうする?」
挑戦的な瞳を向けられて、悔しさばっかり、沸き上がってくる。
意地、悪すぎ。
――彼のことを王子さま視してる女の子達の気持ちが、本当に、よくわかんない。
見た目に騙されてるよ。絶対。
「英語、わかんない」
「知ってる」
「けど、夕飯代は、ちょっと高い…」
「そうか」
「かといって、一人で解けるとは思えない……」
くっ、なんて、声を漏らせば。
上からはおもしろそうな笑い声が降ってきた。

END

 

20040813のペーパーに載せておりました。
こっちはお笑いですねー。
葵喬さんに、「玲自体がギャグだから」と、言われちゃいました。
シリアス長編を書くために創り出した子だったんだけどなぁ…。

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