彼女の行動に、いちいち反応して。
どうした? なんて、聞いてしまうのは。もしかしたら、もう。
俺の癖のようなものに。
なっているのかもしれない。
その意味
指摘されたのは、ついこの間。
彼女が笑うたびに。
彼女の表情が、曇るたびに。
彼女の視線の先が、切り替わるたびに。
俺はその問いを、発していて。
「珪くんて、いつも聞いてくるよね?」
くすくすという笑みとともに、そう言われたのが――一昨日のこと。
もちろん、俺には自覚なんて、なくて。
その時には、そうか? なんて、答えてしまったけれど。
「かわいいね?」
隣りで笑う彼女が、そう言う前に。
俺はやっぱり、その言葉を口にしそうになっていたから。
そう言われたのを思い出して。
慌てて、口を閉じた。
理由は…わかっているけれど。
それをもし、彼女が知っているとしたら。
ほんの少し――悔しくて。
「? 珪くん?」
口元に手を当てて、考えていると。
彼女が首を傾げて、俺の顔を覗き込んできて。
それに俺は、何でもないと、答えるしか…できなくて。
素直に答えることは、なぜか悔しく思えて。
できなくて。
理由は――そう。
いつだって、彼女が見ているもの。
彼女が思っていること。
彼女の心の中にあるもの。
そのすべてを、知っておきたいと思っているから。
それが、行動に出てしまうのは、仕方のないことかも、しれなくて。
けれどそれだけ。
俺が彼女のことを好きだという、事実にも、繋がっていて。
そのことはべつに。
事実だから。
本当のことだから。
かまわない……と、思っているのに。
どこか、自分だけが、好きなような気がして。
自分ばかりが、相手のことを想っているようで。
悔しくもあって。
それを口にするのも…悔しくて。
俺は必死に、彼女にその問いの言葉を口にしないように、している。
――けれど。
そのことがすでに。
負けを認めているようで。
彼女が俺を、見ていない。
それを確認してから、小さく頬を膨らませた。
べつに。
俺が彼女のことを好きなのは、わかり切っていることだから。
そのことはいいと、思う。
そのことを知らせても、いいと思う。
けれど、彼女が俺に対して、同じ行動を取っているかというと。
けして――そうではなくて。
確かに俺は、彼女以外のことに、あまり興味はないけれど。
それでも――…
「珪くん?」
今度は軽く、彼女のいない景色を睨んでいると。
彼女はまた、俺の顔を覗き込むようにして、俺の名前を呼んでくる。
小さな、敗北感。
「…珪くん?」
彼女の声が小さくなったことに。
彼女の頬へと、手を伸ばす。
負けを認めてしまえば、楽になるのに。
そう。
彼女のことを、『好き』だと。
そう――認めてしまった時のように。
「珪くん、どうかしたの?」
眉尻を下げた彼女に、笑みを零す。
少し、苦いものが含まれたかもしれない。
そう思ったのは、直後で。
「何、考えてるの?」
彼女の不安そうな表情は、変わらないまま。
「…何でもない」
「本当?」
「ああ」
負けだと、わかってはいても。
彼女に伝えるのは、やっぱり少し、悔しくて。
そう答えれば。
彼女はぎゅっと、俺の手を握る。
「優菜?」
「何か…わたしばっかり」
「?」
「何でもない!」
目を逸らすのと同時に、そう言って。
彼女は、俺の手を引いて、歩き出す。
そうすれば、案の定。
俺は、彼女に引っ張られるようにして、歩くことになって。
その、小さな背中を見ながら。
俺は小さく、息を吐く。
けれど。
ちらりと振り返った顔に。
小さく、首を傾げた、その仕草に。
不安そうな……表情に。
思い出したのは、さっきのこと。
――彼女が、俺の名前を、呼ぶ時は。
さっきのように、呼ぶ時は。
いつも俺が、何かを考え込んでいる時。
ほとんどが、そんな時。
俺が、彼女に「どうした?」と、聞く時は。
彼女の視線が。
彼女の笑みが。
俺に、向けられていない時。
「………」
俺は、彼女が見ているもの、楽しいと思うこと。
彼女のすべてが、知りたいから。
そう、訊ねて。
けれど彼女は。
俺が、考えていること。
思っていることを、知りたいから。
教えてほしくて、俺の名前を、紡ぐのかもしれない。
そんな考えに至って、小さく笑う。
と、彼女がもう一度、振り返って。
「珪くん?」
そう、俺の名前を紡いだから。
「…聞いても、いいか?」
俺は、いつも彼女が教えてくれるように。
俺が考えていたことを、彼女に知らせるために。
問いを、口にしてた。
END
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