自分が欲深いって知ったのは。
実は、つい最近。あなたに出会った頃は、そうでもなかったのに。
あなたと仲良くなったら、なっただけ。
もっと…って、考えちゃったの。
そばに
いたいだけ
送ってもらって。
遠ざかっていく背中を、見送って。
それに気づいて、振り返ってくれた彼の。
今日最後の、わたしに向けられる笑みを、見て。
小さく、手を振って。
そうしてから、家の中へと入った。
夕飯は? と、聞いてきた母の声も、半ば無視して。
階段を駆け上がって、部屋の扉を開けて。
部屋に足を踏み入れて。
扉を閉めてから、その扉の前で、大きく息を吐く。
まだ、心臓がバクバク言ってる……。
胸に手を当てながら、のろのろとベッドへと近寄って。
腰かけて。
それから、後方へと倒れ込む。
わずかに、身体がベッドに沈んで。
けれど、それよりも何よりも。
真っ白な天井を見上げれば、ぼんやりと、彼の姿が浮かんで。
わたしはまぶたを下ろした。
彼のことを、好きだと自覚しはじめたのは、夏のはじめだったように思う。
思うというのは、確実性が持てないからで。
気がついたら、目で追いかけて。
気がついたら、そばにいたいって。
そう…思っていた。
思い出して、長く、息を吐き出す。
何度も一緒に出かけて。
だからという、わけではないけれど。
友達になれているのなら、嬉しい。
なんて。
そう…考えていた。
――けれど。
友達に好きかと問われた時。
素直に頷いている自分がいた。
この想いに、名前を付けるなら。
きっとそれが、一番しっくりくるんだろう。
そう、思ったからかも、しれなくて。
彼の笑みを見る度に、もっと見たいと、思ってしまう。
彼の笑みを見る度に、ほかには? なんて、考えてしまう。
ほかには、どんな表情をするの? なんて。
考えて。
触れたなら触れただけ。
やっぱり、もっとと、願いはじめる。
手を繋いだなら、ずっとと、思うし。
そして、今日は。
「………」
彼の部屋に行ったのは、今日が初めてで。
誘われた時は、どきどきした。
今日だって、朝から落ち着かなくて。
チャイムが鳴った時、すぐに部屋を飛び出した。
玄関を開けて、彼の顔を見たら。
一瞬。
ほんの……一瞬だけだけれど。
安堵してた。
でもすぐに、手を差し出されて。
触れて。
繋がって。
引っ張られたら。
これから行く場所を思い出して。
どきどきした。
彼の部屋なんて。
本当に、彼のテリトリーでしかない場所。
そんなに、あなたはわたしのことを、信じてくれてるの?
そう、聞きたくて。
それに、彼は一人暮らし。
目的地に着いてしまえば。
彼とわたし。
二人だけの時間と空間が、流れはじめることにもなる。
そう考えたら、どきどきしっぱなしで。
仕方が、なくて。
わたしは自然と、言葉を発することは少なくなっていた。
何をどう言えばいいのか、わからなくて。
わからなく、なってて。
彼はいつもみたいに、あんまり口を開いてはくれなくて。
でも。
不安になって、彼の横顔を見上げたら。
必ず、気づいてくれて。
笑みをくれたから。
その時だけは、ほっとして。
あのね…? なんて、言葉を紡げてた。
彼の家に着いても、同じで。
でも、彼の部屋に通されたら。
逆に、落ち着いてた。
二人だけだけど。
それが逆に、嬉しかったから。
自然に、話せた。
彼も気を使ってたみたいだったし。
そうやって、二人だけの時間を過ごしたら。
次に、ここに来るのはいつだろう?
そう、考えはじめていた自分に、気がついた。
一週間後ってことは、ないかな?
一ヶ月後とか…だったら、嬉しいな。
なんて。
考えていた自分が、ちょっとだけ、嫌になった。
そうやって、帰ってきて。
でもそれだけ、彼のことが好きなんだな、なんて思うと。
途端に、許されたようにさえ、思えて。
わたしは――あなたのことを好きでいていいですか?
これからも、あなたのことを、どんどん、好きになっていっても、いいですか?
問いたい気持ちは、いっぱいあったけど。
言えるはずもなくて。
好きって言えるのは、いつなんだろう?
考えて、小さく息を吐く。
着ていたままだったコートのポケットから、携帯を出して。
身体を起こして。
コートを脱ぎながら、時間を確認すれば。
彼はそろそろ、家に着くはずで。
コートをハンガーにかけてから。
わたしは携帯の、メール画面を開いた。
また、彼の領域に、足を踏み入れたい。
その想いを、言葉にして届けるには。
どんな言葉を選んだらいいんだろう?
考えて。
それでもあまり、考えないまま。
わたしはボタンを、押していた。
END
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