泊まるとか。
そういう理由でなくても、そこには足を踏み入れたくなる。

ただ、中が見たいから。

けど、それだけじゃ。
やっぱり、従業員さんたちは、いい顔をしないだろうね?



近い未来の話




遠目に見ただけで。
雑誌とか、そういうもので外観を見ただけで。
中はどんな風なんだろう?
とかって、考えたこと…ない?
なんて聞かれて。
わたしは少し、首を傾げる。
大きなホテルを見上げて。
出入り口から少し離れた場所で、中を覗いたことはあったけど。
そう答えたら。
なっちんはやっぱりねー、なんて嬉しそうな笑みを零してた。
「なぁに?」
「今度、はばたき市にできるホテル、知ってる?」
「ホテル?」
「そ。リゾートとしても売り出すんじゃない? 都市開発の一環とか言ってるみたいだけど。山も海もあるからね」
「へー」
「でね? そういうホテルを募集してるんだってさ」
「?」
「外観見て、中が見たいって思うような、ホテル」
言われて、納得して。
けれど。
「アタシさ、今月マズイのよ」
「え?」
「だからさ、協力して!」
手をあわせたなっちんに、首を傾げる。
全然、話が見えないんだけど、なんて零せば。
「採用された人には、何か、賞金が出るらしいんだよねー」
なんて、教えてくれた。
でも。
「それって、集計取ったりとか、するんでしょう?」
なっちんの後ろからの声に、わたしはその人の名前を口にする。
と、なっちんは振り返って。
「志穂」
って、同じように呼んでた。
「べつに、東雲さんに聞いて、それを出したとしても。集計取ったり、選んだりしてるうちに、軽く二ヶ月は過ぎるわよ」
「ウソ!」
「本当。二ヶ月後の自分を心配してるなら、べつにいいけど」
言い放たれた言葉に、なっちんはあごに手を当てて。
それから。
「アタシには今の方が大事だし」
そう言いながら、立ち上がった。
「ごめんね、ユナ。今の忘れて!」
「え? う、うん……」
答えれば、なっちんは苦笑しながら離れていって。
その背を見ていたわたしに、有沢さんが模試の日程を教えてくれたけど。
中が気になる、ホテルの外観…か。
頭の中は、そのことでいっぱいだった。



「建ってる場所にもよるけど。海辺なら、白いホテルって、気になるよね?」
お昼休み。
なっちんが聞いてきた事柄を、彼に話して。
それからわたしは、自分の意見を述べてみてた。
彼はそれを、笑みを浮かべて聞いてくれていて。
「いいな」
って、呟いてくれた。
「でも、ホテルって難しいよね?」
「? どうして?」
「だって、ホテルっていうと、どうしても高いビルを想像しちゃうじゃない?」
「…ああ」
「どうしても、ペンションとかの方が、入りやすいかなーって、思うよね?」
「だな」
短い返答に、一度頷いて。
お弁当のおかずを、一口、口へと運ぼうとして。
わたしはその手を止めた。
「でも、白いホテルって、憧れでもあるかな」
「?」
「部屋も白で。窓から海とか、真っ青な空とか見えたら。気持ちいいだろうね?」
「……だな」
思い浮かべて、笑みを浮かべて。
彼も同じように、優しい微笑を落としてくれて。
それを見ながら、おかずを運んだ。
お母さんお手製のそれは、いつもと変わらない味で。
彼も同じおかずが並ぶそれを、きちんと食べていてくれて。
「それ、実はピーマンが入ってるんだよ?」
「え?」
「珪くんが今、食べてるやつ」
くすくす笑えば、彼は眉根を深く寄せて。
それでも、「うまいな、おばさん…」なんて、感想を言ってくれたりもした。
ちゃんと食べたかを、お母さんに報告しなきゃいけないから。
わたしは彼を見て。
ちゃんと食べ切った時に、彼の苦手なものが入っていたおかずを教えてあげてた。
わたしもこの頃は。
ちゃんと隠せるようになったけど。
お母さんの方が、本当に上手だから。
それに、彼も。
苦手なものを克服しはじめているから。
嬉しくなって、くすくすと笑う。
そうしながら、お弁当を食べて。
「優菜」
「? なぁに?」
「探しとくから、俺」
「え? うん…」
「だから、いつか、行こうな」
「……うん。?」
言われたことがわからなくて。
首を傾げたんだけど。
彼は何も言わないまま。
そうして、ただただ、微笑を浮かべているだけで。
いつしか、会話はべつのものに変わっていってた。

END

 

ちょっと考えました。
でも割と、さらさらと出てきてくれました。

二次創作書きさんにたった10のお題』より、お借りしました。
十個目は、『白いホテルで』でした。

web拍手に置いてました。

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