姉ちゃんは本当に呆けてるっていうか、何て言うか。
だから…オレががんばらないとって思ったんだ。



弟は心配性




「だから!
姉ちゃんは疎いんだよ、そういうことに」
自分で持ってきたのだろう、スナック菓子をつまみながら、彼は話す。
聞きながら、服を手に取った葉月は、わずかに眉根を寄せた。
「聞いてんのかよ、葉月!」
「聞いてる」
呟くように返答し、葉月は纏っていた上着に手をかけた。
「ならいいけどよー。で、姉ちゃん、今までにも何回か…告白とかされてんだよな。こっちに来る前に。オレが知ってる限りじゃ、三回」
言い終える直前、ちらっと視線を向ける。
案の定、言葉に手が止まった姿が見えた。
それに尽は、「やっぱり…」と心の中でだけ思う。
けれどそれを表に出さず、言葉を続けていく。
「なのに、姉ちゃん。本気にしてないんだ、そういうの」
「……本気にしてない?」
「そ」
口に放り込んで。
腰かけていたいすの上で胡座をかく。
葉月はといえば、顔を顰めたまま――素肌に纏っていた白いシャツを脱ぎ捨てる。
着るように言われた服を広げて、袖に腕を通して。
「聞いていいか?
葉月」
「何だ?」
「モデルって…楽しい?」
「……さあ」
返答に「ふぅーん」と気のない言葉を漏らし、尽は空になった袋を手近にあったごみ箱へと入れた。
「それで?」
「?
姉ちゃんのこと?」
「ああ」
「うーん…、告白を告白として受け取ってないっていうか……そんな感じでさ」
「………」
「遠回しに言っても届かないって言うのかな?
鈍感すぎるっていうのが、一番かもしれないけど」
「それはわかる」
「だろ?
だから、オレがこうやって動いてるわけ」
「…?」
「姉ちゃんに見合う男をピックアップしておいて、姉ちゃんがその男の情報を聞きに来たら教える。べつの男のことを聞きに来たら、釘を刺す。言っとくけど、今までもそうやって来たんだ。でも、姉ちゃんから知りたいって言ってきた試しはなし」
「………」
「あまりに恋愛に無頓着だから、高校生になったんだからって焚き付けてみた。入学式の日の朝に。聞きたいことがあるならオレにも聞いてよって言った」
「で?」
「あ?
葉月の情報は聞きに来たぞ? 嬉しいか?」
「……べつに」
ふいっと視線を外し、葉月はようやく、ボタンを留め終える。
これがなければな、と小さく呟かれた言葉に、尽は息を吐いた。
「姉ちゃんに教えといてほしい情報とかってあるか?」
「…べつに」
「自分で教えるってこと?
あ、ちなみに、葉月は合格だからな」
「何が?」
「姉ちゃんの恋人」
「…………」
足首を持って、尽はそう言い切った。
顔にはもちろん、笑みを浮かべて。
「まぁ、そういうわけだからさ、姉ちゃんのこと頼むぜ?
オレの中じゃ、葉月が一番信頼できる」
「おい」
「じゃ、オレ帰るよ。姉ちゃんにバレると怖いからさ。葉月に迷惑かけるなーって」
「……」
「姉ちゃん、隣りでバイトしてるから、休憩中にでも覗いてみてよ。じゃ」
扉に近い場所にいたのをいいことに、一気に捲し立てて彼は控え室を出る。
ばたんと音を立ててしまった扉を見、葉月は一人、考え込む。
――バイト、何時までなのか…聞けばよかった。
後悔して、それでも様子を見に行こうと考えながら、いすへと腰かける。
「こっちに配達…頼むか」
決めて、彼も部屋を出た。

スタジオと喫茶店の間に立って、彼は小さく息を吐く。
「……もうちょっと…かなぁ?」
うーんと悩んで。
喫茶店へと瞳を向ける。
「でも、こっから先は、姉ちゃんのがんばりいかんだと思うしなぁ……」
また悩んで。
今度はスタジオへと目を向ける。
「それと、葉月。……葉月が姉ちゃんのことで何か聞いてきたら、それとなく流すかな」
よしっと小さく自分の中で決意をして、歩き出す。
「姉ちゃんも早く、彼氏つくってくれればなー、オレがこんなに苦労しないですむんだけど」
オレンジに染まりはじめた空を見上げて、歩き出す。

彼の心配は、姉が卒業というその時を迎えるまで、続いたりする――。

END

 

 

VSではなくて、協力型。
おもしろいんですけどね、王子と弟の対決っていうのも。
でもま、樹の中じゃ協力してるんです、この二人。
王子にその気はありませんが。

がんばれ、尽!
姉が幸せになるその日まで!(笑)

戻る