おまえの口癖

そう 指摘したら

彼女は何度か
瞬きをして

首を傾げてた




saying





パタパタと、歩いて。
時に、小走りになって。
そんな足音が響く中で、俺はわずかに、頭を上げる。
何だ…?
薄々、わかってはいることだけれど。
けれど、きちんとそれを、確認するために。
「あ、葉月くん、起きた?」
「………」
放課後の教室。
誰もいない中で。
机の間を、縫うように動いていたのは、案の定、彼女で。
彼女はその言葉を発すると同時に、止まったから。
足音も、この教室の中からは消えた。
「起きた早々、悪いんだけどさ。それ、職員室に持っていってくんない?」
「……嫌だ」
答えれば、彼女はうーっと唸りはじめて。
それじゃあね…と、べつの頼みごとを考えて。
「これ、纏めてて?」
「………」
目の前に差し出されて。
渋々、受け取れば。
彼女は、「じゃあ僕、これ持ってってくる」と、教室を出て行く。
何を頼まれたのかは、知らないけれど。
忙しく動く姿に、息を漏らした。
ああ、そういえば日直だったな、あいつ。
黒板を見て、ポツリと思う。
本来の色を取り戻したように。
深い翠色のそれは。
確実に、彼女の仕事だったから。
手元に視線を移して。
言われた通りに、まとめはじめれば。
また廊下を、パタパタと駆けてくる音。
白い紙に印刷されているそれは、何かの資料のようで。
読んでも、何が何だか、さっぱりで。
「纏め終わった?」
教室に辿り着くと同時に、そんな言葉。
教室の扉に手を付いて、中を覗き込むような格好で、そう言って。
それから彼女は、ゆっくりと、中へと入ってきて。
俺の、目の前に立つ。
「出来た?」
「ああ」
「どもです」
手渡して。
「早かったな」
「ん? ああ。先生いなかったから、机の上に置いてきただけ」
「………」
「あと何だっけ? ……ああ、そうだ」
言いながら、周りを見渡して。
その瞳は、一点で止まる。
これは――彼女の癖だと。
俺はそう、思っていて。
「…いつもそうだよな、おまえ」
「ん? 何が?」
「その台詞と、行動」
「……?」
顎に手を添えて。
眉根を寄せて、考える。
それでも、わからなければ。
「どれが?」
やっぱり。
困るでもなく。
ただ本気で、わからないという顔をして、問うてくる。
俺はそれに、思わず吹き出して。
彼女は軽く、頬を膨らませてた。
「なーにーがー! って、聞いてるの!!」
「…わかってる」
「じゃあ、笑ってないで、答えてよ!!」
顔を覗き込まれて。
また俺は、少し笑ってしまって。
彼女の頬は、また少し、膨らんで。
「『あと何だっけ?』ってやつ」
「? ……そういえば、そうだね…」
「言いながら、回り見渡して。いちいち、『ああ、そうだ』って言って、視線の先を止める」
「………」
伝えれば、彼女は考え込んで。
そんな彼女を放って、俺は立ち上がる。
資料は、教壇の上に置いておけばいいと、彼女はぽつりと零して。
「何か…迷惑かけた?」
続けるように、そう落とした。
困っている、顔。
それに、べつに、と。
短く返せば。
彼女は首を傾げて。
「気になっただけ。ただ」
そう加えれば。
彼女はほっとしたように、笑ってた。

END

 

玲はきっと。
癖でさえも、迷惑だと言われたら。
やめるように心がけちゃうんだろうなー…なんて。
そんなことを考えて、書いた代物。
でもきっと、彼はそんなこと、気にしないでしょう(うん)。

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