いつか
行けたらいいね?いつか
この目で直接 見られればいいね?
何気なく
紡がれた言葉の真意を
俺は 今
計りかねてる
いつかきっと
現実に
ソファに腰かけて、彼女は一冊の本に、目を落としてる。
それを横から覗き込んではいるけれど。
時々、盗み見るように、彼女の横顔を、瞳に映して。
その度に、彼女もまた、瞳を向けてくれて。
ふっと、笑うから。
俺もつい、笑みを浮かべてしまう。
そうして過ごす、日曜日は。
今日が初めてと言うわけでは、ないけれど。
ゆっくりと。
けれど、時間の流れは、速く感じてしまう、そんな日が。
俺にはとても、大事で。
「ねぇ、珪くん」
「ん?」
「綺麗だね?」
「ああ」
同じ会話を、幾度となく、しているから。
俺は笑いを含んで、答えてしまっていた。
けれど、彼女はそれに、気を悪くしたような気配はなくて。
また、嬉しそうに、本へと瞳を向ける。
青い色ばかりが目立つ、そのページを、彼女は飽きずに、見続けていて。
水中カメラで撮ったらしい、そこには。
鮮やかな色をした魚たちが、泳いでいて。
彼女が綺麗だと、何度も言ってしまうのも、仕方がないとさえ、思うほど。
乾いた音を立てて、ページが捲られる。
「これ…珊瑚?」
「…だな」
「へぇー。珊瑚もいるんだー」
声を上げた彼女の瞳は、好奇に満ちていて。
俺もまた、嬉しそうに笑みを浮かべた。
彼女といると、自然と笑顔になれる、自分がいて。
それがとても、嬉しいと思えるから。
「いいね? 行きたいね?」
心から、そう思っているかのように、彼女がそう、言葉を紡ぐから。
俺はただ、答えるために「そうだな」と、発した。
行けるものなら、行きたいとは思う。
できることなら、彼女と一緒に。
けれど、そんなことが、言えるはずもなくて。
なのに。
「いつか、行けたらいいね?」
彼女が綴った言葉に、俺はただ、驚くだけ。
行けたら――いいとは思うけど。
彼女の言葉はきっと、そういう意味じゃない。
「いつか、この目で直接、見られればいいね?
こんなに綺麗なんだもん」
「…ああ」
答えをもらえたからか、彼女は嬉しそうに笑って。
また、彼女は青へと、視線を落とした。
彼女が言っているのは。
『いつか、行ければいい』
という、それだけだから。
べつに、俺と二人で、と言っているわけじゃない。
いつかの時のように、彼女の家族の中に、俺を交えて……という、意味かもしれないし。
仲のいい友達と一緒に……っていう、方かもしれない。
けれど、彼女は『みんなで』という、言葉を使ってはいないから。
もしかして――と、思ってしまうのも、仕方がないのかも、しれなくて。
俺はじっと、彼女の横顔を見続ける。
にこにこしながら、彼女はページを捲って。
感嘆の声を上げて。
そんな彼女に、俺は、真意を聞けないままで。
一人でグルグルと、思考を巡らせる。
口にできない問いに。
もちろん、答えは返らなくて。
まぁ、その『時』は、俺が用意しても、いいんだしな。
なんて、思いついたら。
小さくふっと、笑ってしまっていた。
END
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