恋をしたら
みんなキレイになるんでしょう?アタシはどうかな?
アタシは……アイツの目に
少しでも とまれてるのかな?
SHA-BA-LA-BOO
この前買った、新品の服を着て、街へと出る。
よしっ、なんて気合いを入れたら。
こっちを見てた男と目が合った。
けど、それを軽く睨んで、踵を返す。
大丈夫?
今日のアタシは、昨日よりもカワイイ?
鏡の前で、それはないか…、なんて、肩を落としてみてた。
それでも、服に負けてないならいいや、なんて、外に出てみた。
アイツに会える保証なんて、全然ない。
ないけど……。
いそうな場所なら、何となく、わかるから。
アタシは足を動かし続ける。
いつ――なんて聞かれても。
確かなことは言えないから、答えられないけど。
それでも。
アタシはアイツのことが好き。
それだけは、きっぱりと、言い切れるから。
とりあえず、そんな気持ちになったら、行動あるのみじゃない?
なんて。
考えながら、街の中を進んでく。
恋をしたら、みんなキレイになる。
友達だってそう。
キレイに――カワイクなったし。
アタシは…どうなんだろ?
ふと、店のウィンドウに映った自分の姿を、見てみる。
変わって…ないと思うけど。
でも、『恋』っていう魔法は、かかってるはずなんだから。
もう一度気合いを入れて、また、歩を進めていく。
魔法をかけられるのは、シンデレラ…だったよね?
王子さまに会うために、キレイになりたくて。
何だっけ? 呪文。
確か――…。
「なっちん?」
声をかけられて、アタシは下げ気味だった視線を上げる。
そこには、友達がいて。
二人の――友達がいて。
「玲? アンタまた、葉月と一緒なの?」
「…いいじゃん。葉月くん、遊んでくれるって言ったんだから」
「ハイハイ。で? これからどっか行くの?」
「うん。映画館」
「映画?」
「そ。葉月くん、どうしても見たいのがあるからって」
「ふぅーん…」
「僕さぁ、映画ってあんまり好きじゃないから、パスしたかったんだけど。奢ってくれるっていうから、いいかなーって」
「………」
「なっちんは? 買い物?」
「まぁ、そんなとこ」
用事なんて、ほとんどないけど。
あいまいに答えれば、玲は少しだけ黙り込んでから、にやって笑って。
「ニィやん、この先のバイクショップにいたよ?」
「な!? アキ、玲!?」
「ただ、ニィやんのこと言っただけなのに、何でそこまで狼狽えるかなぁ…?」
「べ、別に、姫条に会いに行くんじゃないわよ!」
「ふぅーん……」
玲はにやにや、笑ったままで。
その隣りにいた葉月は、眉根を寄せてた。
とりあえず、葉月には気づかれてないみたいね。
っていうか。
玲……。
「…田端、時間」
「あ、そいえばそうだった。じゃ、また明日、学校でねー」
「………」
アタシの横を通って。
二人は相変わらず、腕を組んだままの状態で、去っていった。
何か…ヘンよね、やっぱり。
この前、玲の弟の尽にも、相談されたけど。
友達なのに、毎週遊びに行って。
腕組んで、歩いてるんだから。
外でも学校でも。
「………」
とりあえず、二人のことは放っておいて、アタシは視線を前へと戻す。
この先の、バイクショップ。
そこにアイツがいる。
本当の理由は、会いに来たんだけど。
そんなこと、言えるはずもないし。
だから、通りかかっただけ。
そう言おう。
そんなことを考えて、足を踏み出せば。
「藤井?」
って、また声が届いた。
ただそれは、アタシの身長よりも、高いところから。
「……姫条…」
「何やっとるん? ついさっき、玲ちゃんと葉月にも会うたんやけど」
「アタシは…買い物でもしようかなーって、歩いてた……だけよ」
カワイクないのは、わかってるんだけど。
でもそれでも、カワイクなんてなれない。
すぐには、ムリ。
「それ、新しいやろ?」
「? 何が?」
「服」
「…まぁね。何で?」
「見たことなかったからなぁ。よく会うやん?
オレら」
「………」
「せやから、何となく覚えとってな」
「…ってことは、同じの着てると、ツッコミが入る?」
「あ? 突っ込んだ方がよかったんか?
したらこの前……」
「本気にしなくていい!」
高い位置にあるはずなのに、わざわざ、アタシが叩きやすい位置にまで頭を下げたから、遠慮なくそれを叩いてあげた。
頭を抱えた姫条に、アタシはくすくすと笑って。
「あ、そう言えばさぁ……って、アンタが知ってるわけないか」
「何やねん。気になるやろ?」
シンデレラで、おばあさんが口にする呪文。
それがどうしても思い出せなくて。
それがどうして気になったかって聞かれたら、少し困るけど。
まぁ、そのままを伝えても、かまわないかなって考えて。
「シンデレラでさー。おばあさんが魔法使う時に、言う…呪文?
何だったかなぁって」
「? 何で?」
「恋をするとさ、女の子はキレイになるって言うじゃない?
それって何か、王子さまに会いに行くために、キレイになりたいって考えたシンデレラに似てるなぁって」
「あー…、なるほどなぁ」
「だからちょっとね」
考え込みはじめた姫条の顔を、下から覗き込むようにする。
それにちらりと視線を向けてきた姫条に、小さく首を傾げれば。
「……言うてええ?」
「? 何よ?」
「…やっぱええわ」
「……何なのよ!?」
バシッと強く叩けば。
姫条は大袈裟なぐらいの反応を示して。
小さく頬を膨らませていたのだけれど。
アタシはそれに、小さく笑ってしまっていた。
「で、魔法やけど」
「! 知ってるの?」
「有名やん? ……つーか、時々行く公園で会う女の子が、教えてくれてなぁ。この前」
「あのね」
「かわいかったで? にこにこしながら、『昨日、シンデレラのビデオ見たんだよー』て」
少し声を高くして言ったのに、アタシは眉根を寄せる。
それから正直に、「キモ…」なんて、呟いちゃった。
「かわええやろー?」
「カワイクない。キモイ」
「傷つくわー…」
「傷ついていいから、早く教えてよ」
睨むように、高い位置にある顔を見上げれば。
姫条は小さく、息を吐いて。
「ビビデバビデブー…やった。確か」
って、教えてくれた。
「ああ。確かにそうだった」
「………」
「聞くと思い出すのよねー」
ありがとね。
短くお礼を言って。
視線の先を、姫条から空へと向ける。
同じ…じゃ、おもしろくないよね。
違う呪文……だろうな。
考えて、首を傾げる。
恋の魔法。
やっぱり、シンデレラと同じ、夜にかけて、十二時で切れちゃうのかな?
「藤井ー」
「……何よ?」
確かにアンタのこと放ってたけど。
そんな情けない声、出さないでよ。
そんな風に、言いたかったけど、言わないでおいて。
「暇なら、どっか行かへん?」
って、その言葉を聞いてた。
「…は?」
「せやから、どっか行こうや」
「………」
「映画館行けば、葉月と玲ちゃんの二人に、合流できそうやしな」
「…あのね」
「何や? 嫌なん? せやったら……」
「違うってば。何で急に、そうなるのよ?」
聞けば姫条は、にっこりと笑って。
ええから、なんて言いながら、歩き出した。
アタシも、つい、そのあとを追うように、歩き出す。
振り返った笑顔に、歩みはとまりそうになったけど。
それはぎゅっと耐えて、必死にあとを、追いかけてた。
END
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