不意に突然。
それに思い立った。

だからと言って、行動に移すことなんか。
絶対と言っていいほど、ありえないのに。



REASON




隣りで笑う少女の。
その笑みに。
彼は微笑を返す。
何もすることのない、その日。
それでも、彼女と一緒にいるだけで、特別な日になることを、彼は知っているから。
こうして街中を、ただただ、歩いているだけでも。
彼女と一緒だから、特別な時間。
そんな中で。
通りに響いたのは、赤ん坊の泣き声。
ぱちぱちと瞬きをして、彼女が振り返って。
それを追いかけて、彼も振り返る。
「どうしたんだろう?」
「さあ…?」
「お母さん、そばにいなかったのかな…?」
首を傾げた彼女は。
それでもすぐに、大きく目を見開いて。
「大きな犬が、ベビーカーのそばにいる……」
そう、小さく零して、彼に届けた。
それに、彼も「ああ」と、言葉を返して。
「びっくりしたのかもな」
「だと思う…」
犬はただ、ベビーカーを覗き込むだけで、何かをしようという気はないらしくて。
それに、彼女の表情は、ほっと緩む。
そんな彼女の表情を見て、彼はふっと笑んだのだけれど。
思い至ったそのことに。
彼は小さく、息を吐いた。
表情から、笑みをかき消して。
見たいとは、思わないけれど。
いや――思っているのかもしれないけれど。
その理由が、自分じゃなければ嫌だなんて。
そんな、小さな思いに気づいてしまって。
きっと――綺麗だとは思う。
静かに涙を流すんだろう、その表情を思い浮かべて。
彼は彼女の顔を、じっと見る。
自分が泣かせてしまったなら。
そのことで、傷つくことは、わかっているのに。
それでも。
彼女が泣く理由は、自分がいい、なんて。
自分以外は許さない、なんて。
「珪くん?」
「ん?
どうした?」
「考えごと?」
「………」
「?」
泣いてほしい、なんて。
そんなことを言ったら、彼女はどうするんだろう?
どうすれば、彼女は泣いてくれるんだろう?
考えて、考えて。
昔の、その涙をいっぱい溜めた、その顔を思い出して。
彼は小さく、頭を振った。
あの時のことを思い出すだけで。
こんなにも、胸は痛みを発するのに。
それなのに、見たいだなんて。
「…珪くん?」
「何でもない」
緩く、首を振って見せて。
彼は、手にしていた彼女の手に、力を込めた。
泣かせることの、ないように。
そう…考えていたはずなのに。
「嬉し涙なら…いいか」
ぽつりと呟いた一言に。
彼女は「なぁに?」と、言葉を届けてきて。
それに、彼はまた、何でもないと、答えるしかなかった。

END

 

短い…(いつものことです)。
最初は、やっぱり主人公ちゃんに泣いていただこうかなーと思ってたんですが。
やっぱり…やめました。

だからどんな話なのか、わかんなくなったのよ!(ヤケ)

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