楽しみだね?

そんな
彼女の言葉に頷いて

でも 俺が楽しみにしてるのは
彼女とは違うもの



odontoglossum




手を伸ばして。
枝にすがりつくように積もっていた雪に触れる。
そうした彼女に、小さく笑みを零せば。
「やっぱり冷たいね?」
そう、言葉が届けられた。
手を拭いて、てぶくろをして。
それから下ろされた手を、俺はすぐに、取る。
もちろん、繋ぐために。
彼女は特に、そのことについて、何かを言うわけではなくて。
ただ、笑みを浮かべるだけ。
それに微笑を送れば。
彼女は笑みを濃くしてくれて。
――延々に続けばいいと思える。
そんな、時間。
けれど、吹く風は冷たくて。
闇は、迫ってきていて。
今の自分の年齢と。
彼女の身体のこと。
制約と、心配。
それを考えると、止まらないけれど。
それでも。
彼女を想う気持ちだけは、変わらずにあって。
いつか、想いが届いたなら。
受け入れ、られたなら。
制約は、なくなっていくけれど。
それでも、心配はなくならない。
「…もうすぐ、だな」
落としてみれば、彼女は俺を見て。
首を、傾げて。
でもすぐに、笑みを浮かべて、頷いてくれる。
「そうだね? もうすぐだね? クリスマス」
くすくす笑って。
そのたびに漏れる、白い息に。
心配は、募って。
誰かにじゃまされるのは嫌で。
けれど、彼女の身体も、心配で。
「楽しみだね?」
そんな考えは、彼女の笑みで、かき消されていく。
「ああ」
答えて。
心配だけれど。
制約も、あるけれど。
だからこそ。
今がどれだけ大事かを、思い知らされて。
守りたいものを、俺に、思い出させてくれる。
「ケーキとか、料理もそうだけど。プレゼントが一番かな」
「…そうか」
「珪くんは?」
問われて、少し、考えて。
「…教えない」
そう、言ってみる。
彼女は大きく目を見開いて。
「違うもの?」
小さく、そう、問いを返してきた。
「ああ。おまえとは、違うもの」
「…楽しみなの?」
「ああ」
もちろん、プレゼントも楽しみだけれど。
彼女のが回ってくればいいと。
そう願う気持ちの方が、大きいから。
彼女と共に過ごせる時間。
彼女が見せてくれる、表情と。
そして、彼女の姿。
それが、俺の楽しみでしかなくて。
考えているのか、彼女は首を傾げて。
鞄を持ったままの手を、口元に当てていて。
俺はくすくすと、笑うだけ。
「それって、毎年? それとも、今年だけ?」
「…毎年、だな」
正確には、去年から。
一年の時は、気になっていただけだったから。
でもきっと、これから毎年。
楽しみにすることは、確か。
「…なぁに?」
わからないのか、彼女は答えを聞いてきて。
俺は笑みで、首を振る。
「教えないって言った」
「………」
けち。
小さく聞こえた声に、俺はまた、笑みを零して。
笑って。
それでも彼女は、考え続けていて。
一瞬一瞬が大事なのだと、教えてくれる存在だから。
一瞬一瞬を大事にしたいと、そう思う。
もちろん、彼女と一緒にいる。
一瞬。
「…わかんない」
彼女を困らせるのは、好きで。
でも、彼女に嫌われるのは、嫌で。
眉根を下げた、いじけたような表情に、漏れたのは微苦笑。
それでも、教えるのは、気が引けて。
「当日、な」
そう、届けることで、話を終わらせれば。
彼女は頬を膨らませて。
ついさっきと同じ言葉が、口からは漏れた。

END

 

20051229のイベントで配っていたペーパーに載せておりました。

珪くん視点で書くと。
なぜかいつも、優菜ちゃんが可愛くなります…。

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