明日という日が、君にとって、特別な日の一つなのだと、急に知った。
穏やかな日
放課後。
不意に、彼女はパンッと手を打った。
思い出したような顔をして。
そう言えば、なんて、言葉も発して。
それに、そばにいた猫たちも、一瞬、何事かと顔を上げたのだけれど。
「どうした?」
彼も、猫と遊んでいたその手を止めて、彼女を見る。
と、彼女はゆっくりと子猫を膝の上に降ろした。
それから、顔を上げて。
「あのね、今日…珪くんに頼みたいことがあったの」
今まで、すっかり忘れてた。
苦笑を零しながら、そう言って。
「頼みたいこと?」
「そう。えーと…今日、このあと、暇?」
伺うような視線に、短く「ああ」と答える。
「だからここにいるんだろ?」
「そ、そうなんだけど……」
「それで?」
促せば、彼女は子猫の頭を一度だけ撫でて。
口を開く。
「明日ね、尽が誕生日なの」
ふっと微笑って。
彼女は話を続けていく。
「だから、プレゼント買いに行こうかなって」
「どうして…俺と?」
「尽にね、それとなーく、何がほしいか聞いたら、珪くんが選ぶようなやつがいいって」
「?」
眉間に皺を寄せて、理解できていないことを示せば、彼女は「だからね」と、付け加えてくれた。
「珪くんが持ってるようなものがほしいんだと思うんだ。もちろん、誕生日プレゼントだってことは、バレてたんだけど」
「…そうか」
「うん。それで、珪くんに付き合ってもらおうかなって」
「何を買うか、とか……」
「決めてるんだ。バッグ、あげようかなって」
「バッグ…?」
「リュックとかの方がいいかな? 尽ね、休みの日に友達のところに行く時に、もっと大きいのがほしいって騒ぐ時があるから」
なるほどな。
思いながら、話を聞いていく。
たぶん、明日が近づくたびに、彼女はそれとなく耳を澄ませていたんだろうと。
本当にほしいものほど、唐突には出てこないから。
「借りようとか思って、わたしの部屋に来ることがあるんだけどね? 男の子じゃない? 散々文句言って、結局それで終わっちゃうの。わかってるなら、来なきゃいいのにって、毎回思うんだ」
「そうか」
「笑いごとじゃないよ? 姉ちゃんはアテにならない! とかって言って」
小さく頬を膨らませて。
彼女は子猫に、同意を求める。
けれど子猫は、頭を撫でてくれるその手に、嬉しそうに目を細めたままで。
その様子に、彼女の表情も、笑みへと変わっていった。
それに、すぐそばにいた母猫の頭を、彼はぽん、と一つ叩く。
ゆっくりと腰を上げたのは、その直後。
「珪くん?」
「行くんだろ? 早く行かないと、陽が暮れる」
「あ、そっか。そうだね」
子猫に「ごめんね」と一言零して。
地に降ろしたあと、彼女も腰を上げた。
「おまえ、なんだかんだ言って、選ぶの遅そうだしな」
「ヒドーイ! 大丈夫だもん! 珪くんの言う通りにするって決めてるんだから!」
「そうか」
「そうだよ!」
プクッと頬を膨らませて。
彼女はくるっと背を向けて、歩き出す。
その背を同じように歩き出して、追いかければ。
歩幅の違いか、彼はすぐに、彼女に追いついた。
「悪い」
「べつに…気にしてません」
「してるだろ?」
「……すこーしね」
くすくす笑って、彼女は振り返ってくれる。
その姿に、ほっとして。
彼は彼女の手を取った。
明日は彼女にとっての、特別な日の一つで。
それを一緒に祝わせてくれることに、安堵して。
彼はふっと、笑みを浮かべた。
END
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