休みの日でも、何でも。
あなたに会いたいと、思ってしまう。
それはわがままなのだと。
よく――わかってはいても。
願いのような わがまま
携帯のディスプレイを見つめて。
操作して。
その番号を、映し出して。
あとはそう。
発信する、そのボタンを、押せばいいだけのこと。
――なのに。
彼女はその番号を、ディスプレイから消し去って。
抱えていたクッションに、顔をうずめる。
大きく息を吐いて。
そのあとで、ほんの少しだけ顔を上げて。
彼女はじっと、ディスプレイを見続ける。
きっと、こんな想いを抱いているのは、自分だけ。
彼はきっと、クラスメイトの一人だとしか、思っていない。
……と、思うたびに、彼女はクッションに顔を押し付けて。
たった一人の相手に電話をかける、というその行為でさえ、できずにいる。
電話がかかってくることなど、ありえない。
だって自分は。
彼にとって見れば、クラスメイトの一人。
一ヶ月、経つのだから。
それに、何度か話したし。
二度だけ、だけれど、彼女の誘いに乗って。
一緒に、休みの日を過ごしてもくれた。
楽しかったと言ってくれていたし。
ただ。
確かにまだ、仲がいいとは言えないから。
彼を誘うということに関しては、抵抗があるけれど。
モデル…なんだから、休みの日は休みたいよね?
とか。
だから、わたしに時間をくれるのは、奇跡に近いんだ。
とか。
思えば思うほど、最後のボタンを押すことは、できなくて。
そう。
たとえ、四日間のうちの、一日だけだとしても。
彼の休みを奪ってしまっていいのかどうか、わからなくて。
けれど、一緒に過ごしたいという想いは、消えずにあって。
願いと言っても、いいかもしれないけれど。
それは消えずに、ここにあり続けている。
胸に手を当てて。
彼女は一つ、大きく息を吸い込んで。
吐き出して。
そうして、落ち着くようにと、試みて。
彼女はもう一度、ディスプレイに向き直る。
一番いいのは、彼からかかってくること。
彼の誘いを断るなんてことは、自分には絶対に、できないから。
でもそれは、ありえないこと。
彼はきっと、一人でのんびり過ごしたいと、そう思っているはずだから。
それ、でも。
一日くらいは、わけてもらえるかもしれない。
四日も、休みはあるのだから。
でも、欲を言えば。
一日と言わず、二日。
できるなら、四日とも。
彼と会えたなら、嬉しくて。
彼と過ごせたなら、幸せで。
「……わがまま」
小さく呟いて、彼女はまた、ぽすんと、クッションに顔をぶつけるようにして、うずめる。
考えてみれば、ここまで誰かを想ったのは、初めてで。
いつだって、受身だった自分が。
弟のたった一言で、自分から動いている。
いつもいつも、砕けそうになりながら。
自分でも、がんばっていると、本当に思うから。
わがままなのは、わかっている。
だから、四日のうちの、一日だけ。
彼の時間を、わけてもらいたい。
考えて、彼女はもう一度、ディスプレイにその電話番号を映し出す。
偶然ではなくて。
弟の手によってもたらされた、必然によって、この手の中に舞い降りた、情報。
それに縋りついている自分は。
とても小さくて。
わがままで。
それでも、がんばっていると、思うから。
とても、愛しく思える存在。
考えて。
彼女はボタンの上に、指を添えて。
確実に、その指に力を込める。
耳に当てれば、電波が飛んでいく、その音が、届けられて。
ドキドキする胸を押さえれば。
『…はい』
そう、彼の声が響いた。
それに、無意識のうちに閉じていたまぶたを、思い切り上げて。
彼女は、どもりつつ、自分の名を告げる。
言えたことに、ほっとして。
どうした? と促された言葉に、彼女はえーと、と言葉を選んで。
一日だけでいいから。
あなたの時間を、わたしにください。
願いながら。
彼女はそれを、べつの言葉にして。
繋がっている向こうにいる彼に、届けていた。
END
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