小さな頃からほしかったもの。
自分の感情をストレートに出せる…その、素直な心。
どうしてもほしかったのに、手に入れられなくて。
ずっと……諦め続けていた。
願い
今日は一日曇りだと、天気予報は言っていた。
そんな…午後の初めの授業は自習時間に取って代わって。
窓際の席で、彼はぼんやりと配られたプリントを眺めていた。
問題を読んでは、シャーペンを走らせて。
もうじき終わる…と思った頃。
「あー、わかんなーい!」
急に上がった声に、彼は視線を走らせた。
声の主である、彼女へと。
「だからそれは、ここの文法を使えばいいの」
「どこの文法?」
「ここ」
友達に指し示された教科書をじっと見て。
すぐにプリントへと目を移す。
シャーペンを走らせて、また教科書を見て。
解き終わったらしく、彼女はほっと息を吐く。
笑顔を浮かべたその表情を見て。
彼は綻んでいる自分の口元に気づく。
そして…すぐにシャーペンを持ったままの右手でその口元を隠して、視線を戻した。
――こんな自分は知らない。
彼は、思う。
――それでも……悪くない。
思い直し、笑みを消さずに彼は文字を書いていく。
課題が終わったのは、それからすぐで。
机の上を簡単に整理して――彼は落ちていく意識に逆らわず、瞼を降ろした。
悪くない自分がいる。
もしかしたら、わずかにでも、好きになれるかもしれない自分がいる。
それを否定することは出来ないから、したくはないから。
「葉月くん」
呼ばれて、まだ眠い目をようやく開けて、身体を起こす。
目の前には、わずかに笑っている…彼女。
「おそよう。課題、ちゃんと終わった?」
「ああ…」
端に置いていたプリントを差し出して。
「じゃあ、置いてくるね」
そう言って離れていく彼女の背に、口の中だけで感謝の言葉を述べる。
好きになれるかもしれないから。
「……サンキュ」
「? 何か言った?」
戻ってきた彼女に緩く首を振って。
彼は笑みを浮かべた。
END
|