| 彼女のその言葉に。 今のこの現状を、どうにかして打破できないか。
そんなことを考えはじめた。
俺にはどうすることもできないと。
わかっていながら。
夏がまだ
残る日に
帰りに、俺の家にやってきた彼女は。
少し控えめに、その窓を開けて。
そこに、腰を下ろした。
自分が座るスペースを作ったのだと、俺はそれでわかって。
「風、ないね?」
ポツリと零されたそれに、肯定の言葉を落とした。
ゆっくりと空を見上げて。
「雲は流れてるのになー」
なんていう、彼女の声を聞く。
暑い…のか?
考えて。
衣替えをしてしまった自分のワイシャツの。
折られている、その袖を、瞳に映した。
そうすれば、カタッ、という音がわずかに響いて。
その音の出所を探るべく、視線を上げれば。
彼女が窓のサッシに、頭を預けていた。
「何で、もう衣替えなんだろうねー?」
「……そうだな」
「まだ暑いのにね?」
小さく、くすくすと笑いながら、彼女の視線は空を向いて。
その、背中を見ているだけなのが、どうにも嫌で。
俺は、彼女の隣りへと、歩を進める。
それから、俺の座るスペースも、窓を開けることで作って。
静かに、腰を下ろした。
それに、彼女は俺の顔を見上げてくれて。
にっこりと、笑みまで浮かべてくれた。
「明日、涼しくなるといいな」
「うん。今日は本当。冬服着ちゃって、後悔しちゃったもんね?」
くすくすと笑った彼女に。
俺も笑みを浮かべる。
ただ、少し……苦いもの。
どうにかできればいいのだけれど。
俺の力じゃ、どうにもならなくて。
「朝と夜は、涼しいのにね?」
「…ああ」
「だから、平気かなーなんて思っちゃったんだけどな……」
天気予報、信じればよかった。
呟いて。
彼女は視線を伏せる。
明日。
予報は、なんて言っていたんだろう?
気になったけれど、口にはせずにいて。
そんな俺に、彼女は力なく笑ってから、立ち上がった。
さして広くはない庭の。
その中ほどまで歩いて。
彼女は手を後ろで組む。
それから。
空に瞳を向けた。
「夕陽が沈んでくね」
言われて、俺も空へ、視線を投げる。
気温差が大きいから。
綺麗な夕映えを見せる、その空に。
まるで吸い込まれるように、俺も立ち上がって。
彼女の隣りから、ほんの少しだけ、後ろに下がった位置で。
その光景を見上げてた。
「明日も晴れるといいね?」
「暑いのは…嫌だけどな」
届ければ、彼女は笑ってくれて。
そうだね?
なんて、同意もしてくれて。
それでも、彼女の視線は、空に向いてしまう。
明日も…晴れるのかもしれない。
だからこそ、彼女は憂いに満ちた瞳を、しているのかもしれない。
考えて。
俺はふっと、彼女からも、空からも。
視線を外した。
踵を返して。
家の中に、足を踏み入れて。
ちらりと向けられた、彼女の視線に。
「煎れてやる。コーヒー」
そう綴れば。
彼女は嬉しそうな顔をして、頷いてくれる。
夕陽が顔を隠せば。
気温はぐっと、下がってしまうだろうから。
彼女を家まで、送り届ける、その前に。
できるだけ、彼女の身体が冷えないように。
そのために。
俺はゆっくりと、キッチンへと、歩みを進めた。
END
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