一番言いたい
その言葉は言えなくても
それでも
ありがとうの気持ちは
届けたいから
嬉しかったという
その心は
届けたいから



夢幻花




何を贈るのが一番いいのか、とか。
自分が好きなものを贈っても、喜んでもらえるのだろうか、とか。
そんなことを考えながら、彼はそこを歩いていた。
時折、店のショーウインドウを覗いたりしながら。
何を贈ったら、喜んでもらえるのか、とか。
何を贈ったら、あの、笑顔を見せてくれるだろう、とか。
そんなことを考えながら、一つの建物を見上げて。
結局、自分はここにくるんだな、と。
彼は小さく、微苦笑を零す。
店の扉を、その瞳に映して。
いつも開かれているのだけれど。
今日も開いていたことに、ほっと、息を吐いた。
入り口をくぐれば、そこは物で溢れていて。
ゆっくりと足を踏み入れていく。
手に取りながら、考えるのは…同じことで。
彼女は何が好きなんだろう、とか。
何を贈ったら、彼女は喜んでくれるだろう、とか。
一番、何を贈ったら。
この想いは届くのだろう――とか。
店内をゆっくりと見て回りながら、考えて。
彼女の笑顔を見るためには、何が一番いいのだろう、と。
考え続ける。
たぶん、彼女のこと。
自分が好きなものをあげたとしても。
とりあえずは、喜んでくれるだろうけれど。
あの、心の底からのような笑顔を、見たいから。
花がふわりと咲いたような。
そんな笑顔を見るためには。
何を贈るのが一番いいのだろうと、考えて。
ただただ、先月のお礼、というだけでは、嫌で。
まだ言えない、この想いまでも……届けられたらと。
そんな風にも、考えるけれど。
「…欲張りすぎ……か?」
思って。
口にして。
彼は一度、歩を止めた。
眉間に皺を寄せて。
また、考え直して。
想いを伝えたいという気持ちはあるけれど。
それはまだ、もしかしたら…時ではないのかもしれなくて。
――そう考えながら、逃げているだけかもしれないけれど。
それよりも、やっぱり一番は。
彼女の笑顔を見ることだと、結論を出す。
だから、そのために。
彼はまた、店内を歩き始める。
受け取った彼女が。
嬉しそうに笑う、その笑顔を見せてくれるだろう、その物を探して。
その日のすぐ前に待ち受けている、彼女の誕生日に渡そうと思っている、その物と。
かぶらないように、なんて、考えて。
そして。
まだ用意していなかった、それも、何を贈ろうかと、考えはじめる。
自分が好きだと思う物。
そして、彼女もまた。
好きだと思ってくれるような物。
重なっている部分を考えながら。
その部分に位置しているものを手にして。
喜んでくれるだろうか、と考えて。
思って。
それでもなぜか。
これだ、とは思えなくて。
元の場所へと、それを落ち着ける。
彼女が笑顔を見せてくれる物。
花が綻ぶように。
一度、驚いて。
それから、嬉しそうに。
笑ってくれる物。
俺の名前を綴ってくれると、なおいいんだけどな。
なんて考えながら。
思い浮かべながら。
くすくすと笑みをわずかに零しながら、視線を動かす。
求めているのは、ただ一つの物。
彼女の笑顔を導き出すことのできる。
その、ただ一つの物。
それを考えていたのだけれど、
手に取るのはどうしても。
彼が気に入ってしまった。
そんなものばかりで。
けれど、その手に取った物に、ふと思考が及ぶ。
彼の好みで。
そして、彼女も好きそうな物。
持ち上げて、覗いて。
喜んでくれるだろうかと、考えた。
これならば……彼女も。
幾度か、くるくると回したあとで、彼は微笑を零してから。
それを手に、レジへと向かう。
誕生日に渡す物は、また今度、考えるとして。
それでも、時間はごくわずかだから、このあと。
べつの店へと足を伸ばすことにして。
彼は。
今、手の中にある物が、彼女の笑顔を誘う物だと。
信じていた。

END

 

20040307のペーパーより。
ホワイトデーの一週間前のイベントだったので、そういう話を書こうと。
でもって、主人公ちゃんの誕生日。
ウチでは3月13日なのです。
なので、そんな話。

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