嫌なことばかりじゃないってことを、知っているから。
笑顔で、その場所に行くことは。
決めてた。
『もう』より
長い夏休みが終わったなら。
待っているのは、学校に通い続ける、日々で。
「姉ちゃん、宿題、ちゃんと終わったかぁ?」
「終わってるわよ、優菜は」
「うん。終わってるよ?」
「あー…だよなぁ。葉月っていう、心強い味方がいるもんな」
「珪くんは関係ないでしょ?」
「そうよ。それに、尽にだっているでしょ?
友達っていう、心強い味方」
「友達…ねぇ」
「というより、終わってないの?」
「……んなわけないじゃん」
「はいはい。提出日までにがんばりなさいね」
会話に、くすくすと笑う。
それからちらりと、時計を確認すれば。
いつも通りの時間を指していて。
彼女はゆっくりと、立ち上がる。
それに気づいたのは、母親で。
「忘れ物はない?」
聞かれて、頷いて。
「あーあ、また学校かー」
弟のぼやきにも、笑みを零して。
彼女はかばんへと、手を伸ばした。
長い夏休みは。
確かに、堅苦しい授業の時間がない分だけ、楽しいものだけれど。
それでも。
「おはよう」
声をかければ、あくびをしていたらしい顔のまま、彼は振り返って。
それでも、ふわりと笑みを浮かべてくれる。
休みの間には――なかったこと。
彼に会うのは、いつも、昼ごろだったから。
『おはよう』のあいさつは、交わせなくて。
「おはよう」
「今日から学校だね」
「…ああ」
あくびを噛み殺した表情に、笑みを浮かべる。
今日からは、約束をしなくても、毎日会える。
同じ学校に通えていることが、嬉しくて。
同じクラスの、クラスメイトでいられていることが、嬉しくて。
休みの日は、約束を取り付けなければ、会えないから。
そうしなくてもいい日が続くことは、嬉しい限りで。
「嬉しいんじゃないか? おまえ」
「え?」
「毎日会えるから。友達に」
言われて。
驚いたけれど、満面の笑みを浮かべて。
一番会いたい人に、会えるから。
そう、否定しそうになったのを。
彼女は彼に問いを投げることで、飲み込んでいた。
END
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