それしかできないこと。
それがとても、苦しかった。



もう少し




もうすぐ。
考えて、彼女は視線の先を変えた。
壁にかかっている、丸い時計から――扉へ。
予鈴はとうに、鳴っていて。
鳴り終わっていて。
だからこそ、今、この教室に、生徒の姿は多くて。
ほとんどの生徒が、自分の席に着いているか、その近くにいるのに。
たった一つだけが。
ぽっかりと、座ってくれる人を…待っていて。
「今日はちょっと……遅いかな…」
時計をちらりと見て、彼女は小さく、そう呟いた。
いつまでも、そばにいてくれようとする友達をなだめて。
自分の席へと行かせたのが、ついさっき。
それから、ほとんど同時に、その人は扉の向こうからやってくるのに。
だからいつも、友達の背中を見送る振りをして、その姿を、瞳に映しているのに。
でもきっと、そのあと。
ほっと、安堵の息を吐いていることを、彼は知っていると思う。
けれど……。
考えていれば。
視界の中央にあった、その扉は、開かれて。
それでも、入ってきたのは、べつの生徒。
でも、そのまま。
開かれたままの扉から見えた廊下に、彼の姿が入ってきて。
彼女がほっと、息を吐いた瞬間。
彼女の耳には、本鈴と。
担任が扉を開ける音。
そして、クラス委員の号令の、三つの音が入ってきて。
彼女はあわてて、立ち上がった。


まず思ったのは、顔色が悪いということ。
そのあと、居眠りの回数が多いことにも気がついて。
授業をサボったとしても、結局は、居眠りをするためだと知っていたから、そう考えてしまって。
だからこそ。
「…大丈夫かな……」
それしか、言えなくなる。
彼との関係は、友達とは、言えないかもしれなくて。
きっと、そう。
クラスメイトよりも、ちょっと、仲がいいぐらい。
だからきっと。
彼の中に踏み入るには、まだ早いかもしれない。
そう考えたら、何も聞けなくて。
見るということに、頼らざるを得なくて。
そして。
たったそれだけの情報から得られた結果に。
彼女はただ、心配しかできなくて。
だからといって、何かしてあげることさえも、できなくて。
もう少し、仲がよかったら。
何か、思いついたかもしれないけれど。
けれど今、この距離で。
この…距離では。
何も、できない。
できることといえば、心配するだけ。
頑張ってと、願うだけ。
無理しないでと、願うだけ。
また、ぽっかりと空いている席を見て。
彼女はぎゅっと、手を組む。
そしてただただ、それだけを、青い空に向けて。
願っていた。

END

 

こんな気持ちだったので、こんな話。
書きながら、一番最初に出した本『apples』を思い出してました。

甘くない……!(がっくり)

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