| 君はそうやって呆れるけど 僕にとって見れば
ものすごく重要なこと
……そう言ったら
やっぱ君は
呆れるんだろうけどさ
MILKY WAY
思い出して、ぴたっと足を止める。
あれ?
なんて考えてたら。
彼が眉根を寄せて、振り返ってた。
どうした?
とかって、今にも聞いてきそうな表情。
「聞いていい?」
「? ああ…」
「一昨日ってさ、七夕?」
「…ああ。七月七日」
「………」
「田端?」
「…まぁいいか」
「?」
「一昨日、曇りだったし」
うん、って一つ、頷いて。
僕はまた、足を進めてく。
彼を追い越しても、彼は歩き出す様子はなくて。
今度は逆に、僕が振り返る番。
「どした? 葉月くん」
「…田端」
「ん?」
「七夕…と言えば?」
「天の川」
「………」
「牽牛と、織女」
「………」
「何?」
彼はますます、眉間に皺を寄せて。
それでもゆっくりと、一歩を踏み出した。
「何?」
先に行こうとする彼を、服を引っ張ることで引き止めて。
付いていきながら、彼の顔を覗き込む。
「なーに!?」
背中の服を下へと引っ張り続けていたからか。
彼は首元が苦しくなったのか。
後ろ手に僕の手を取って、襟元を引っ張ってた。
「何か聞いてる!」
「…べつにいい」
「よくない! 君がよくても、僕はよくない」
「………」
「言え!」
命令、と続けて届ければ、彼は大きく息を吐いて。
僕の方に、ちらりと瞳を向ける。
それに、少し睨むようにして視線を返せば。
彼は足を止めた。
「?」
「…願い事は?」
「?」
「願い事」
「あの…短冊に書く?」
「ああ」
「……ない」
「………」
「七夕と言えば、天の川。星。願い事はないから、思いつかなかった」
「………」
「あ、でもね? 笹――って言うより、竹か?――の。あの、飾りは綺麗だから好き」
ふっと笑って届ければ。
彼は脱力したように、肩を落として。
僕の手を離して、また一人で勝手に、歩いていく。
「何? 何か怒ってない?」
「怒ってない」
「でもかなり不機嫌だよね?」
「………」
「そりゃさあ。普通は願い事だとは思うよ?
けどさ。願ってばっかりじゃ、仕方なくない?」
「……そうか?」
「そうだよ。何かに付けて、願ってばっかりじゃない?」
「……そうか?」
「元旦。初詣で神様にお願いして」
「…ああ」
「いやいや。数えたら少ないかもしれないけど。それにしたって、普段から神頼みが多いじゃん?
日本人のほとんどが、神様なんて信じちゃいないのに」
「…確かにな」
「とにかく、願い事は元日の初詣の時だけと決めているのですよ。僕は」
「信じてないのに?」
「? 神様の存在は信じてるよ?」
「………」
驚いたような顔をして、彼はまた、急に足を止めた。
それから一歩遅れて、僕も足を止める。
「ただし、何もしちゃ、くれないけど」
「……おい」
「だってそうじゃない? 僕が生まれたのは、神様がいるから。選んでくれたから」
「………」
彼の腕に、手を絡めて。
僕は歩き出す。
彼を引っ張るようにして。
「でも、僕がここにいるのは、自分の意志。運命を切り開くのは、自分の意志」
「……ああ」
「でも、誰と出会うかは、自分じゃ決められない。そういう部分は、見えない力が働いてるわけ。それが何かと聞かれたら、そう言うしかないじゃないですか」
「なるほどな」
答えが返って、僕は歩きながら、彼の顔を見上げて。
それから、うーんと考える。
最初、何の話だったっけ?
「最初、七夕だったよね?」
「…? ああ」
「なのになぜ、神様談義?」
「さあな」
くすくすと笑われて。
僕は少しだけ、眉根を寄せた。
彼は笑いながら、僕の手から腕を抜いて。
頭の上に、ぽんって手を乗せる。
だけじゃなく、その手を後頭部にまで回して。
僕の頭を押してくれた。
「………」
「バイト、遅れる」
「…そうじゃなくて」
「?」
「バランス崩しそうになったでしょうがー!」
両手を挙げて。
彼の頭めがけて、平手打ち。
彼は笑いながら、それを避けようと、身体を屈めたりしてて。
僕は躍起になって、手を挙げ続けてたんだけど。
分かれ道に来たところで、それを止めた。
「じゃあな」
逃げるみたいに、彼は背を向けて。
離れていって。
「また明日ねー」
と、大声で届ければ。
彼はわずかに振り向いて、手を振ってくれた。
それにやっぱり、バイト変えようって、考えて。
花椿せんせい、今日来ないかなーって。
そんなことを考えながら。
僕もまた、踵を返した。
END
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