本番のその日がどうかなんてわからないけれど。
晴れていたらいいと思う。
そうしたら、一緒に空を見上げよう。



満天の星に




ナレーションが頭の中に響き、空気に融けて。
ゆっくりと小さな明かりも消えて。
同時にそこは人工的な光に満たされた。
薄暗かったはずなのに、急に明るくなって。
彼は慣れないそれに、目を細める。
と、手が翳されて。
彼は少し暗くなったそこに、目を見開いた。
「大丈夫?
珪くん」
その手が誰のものかなんて、見ただけでわかったけれど。
かけられた声に、彼は安堵の息を漏らした。
隠すことをしなかったそれに、隣りの彼女もほっとしたようで。
ちらりと視線を移すと、柔らかい笑みを、浮かべていて。
「悪い」
「ううん。わたしもね、まだちょっと…慣れてないの」
でもきっと、珪くんほどじゃないと思うから。
加えて、彼女は笑みにわずかに苦みを足す。
手を取って、大丈夫だから、と届ければ。
彼女はこくんと頷いた。
「でも、よかったのか?」
「何が?」
「今日、見ちゃって……」
言葉を濁せば、彼女は一度、首を傾げて。
何度か目を瞬かせたあとで、ああ、と手を叩いた。
「いいの。だって、予報じゃ雨だって出てたし、七夕の日」
「でも…」
「いいの!」
なおも言い募ろうとすれば、彼女は頬を膨らませて。
それからすっと立ち上がった。
顔ごと視線を逸らせたまま、一度も彼を見ずに荷物を持って。
「優菜?」
「………」
「怒ったのか?」
急いで腰を上げて、歩きはじめてしまった彼女のあとを追う。
掴んだ手首は細くて。
一瞬、折ってしまうかもしれない、とも思ったけれど。
彼はそれをぎゅっと握った。
「優菜」
「…怒ってないよ」
振り向いた彼女の表情は微妙なもので。
強いて言えば、少し、悲しそうに見えた。
「怒ってないけど、珪くんにしては珍しいなーって思うよ」
「珍しい?」
「だって、今日をなかったことにしようとしてるんだもん」
「?」
「わたしが今日、ここに誘ったのは、たとえ人工の星でも、天の川を見たかったから、だよ。なのに、今日見ちゃってよかったのかー…って言われたら、ちょっと困るじゃない」
「困る?」
ゆっくりとした足取りで外へと出る。
小雨が降り注ぐそこに、それぞれ傘を差せば。
彼女からは、小さな笑み。
「予報では雨って出てたけど、晴れるかもしれない。そう思ったら、ちょっともったいなかったかなって。もし、予報通りに雨だったとしても、あとで見に来てもよかったのかなーって。そう、思う。思うけど」
傘の柄をぎゅっと握って、彼女は一歩、足を踏み出して。
それからすぐに、くるっと振り返った。
彼女のスカートの裾が、ふわりと舞う。
「今日が嫌な日にはしたくない。わたし、珪くんと今日、ここに来られてよかった。今日、あれを見られてよかった。だって、べつの日に見たら、絶対違うものになってるはずだから」
「あ……」
「だから、もし、七月七日が雨とか曇りで。星が見えなくて、天の川なんか、全然見えなくて。それが悲しいって思ったら、またここへ来ればいいんだよ。今日は、期待を込めて。その時は……残念だったなって、思いながら見るから」
「………」
「付き合いたくなければいいよ?
ひとりでもべつに、来られるし」
言葉が終わる前に、彼も一歩を踏み出して。
彼女の隣りへと並ぶ。
傘の端を少し上げて、彼女の顔を見れば。
表情はまだ、どこか淋しそうだった。
手を握って、二人で歩き出して。
「晴れればいいな」
「え?
うん、そうだね」
「そうしたら、一緒に見られるし」
「月曜日だもんね。バイト帰りに見られるね」
「ああ。で、雨だったら」
「雨、だったら?」
見れば彼女は、首をわずかに傾げていて。
彼はふっと、笑みを浮かべた。
誰かべつの人と一緒に来るのかもしれない、なんて。
そんなこと、考えたくもないし、考えさせたくもなかったから。
「――付き合ってやる。来るんだろう?」
「…本当?」
「ああ」
紡げば、ふわりと笑み。
それにつられるように笑んで。
会話がべつの方向へと行ってしまったことを、少しだけ淋しく思いながら、彼は彼方の空へ瞳を投げた。

END

 

残念ながら、樹のとこは雨だったんで、見られなかったんですが。
とにかく、七夕SSです。
来年はどうかなー、とか、二人して考えてそうですね。
今年のその日が終わる前から、もうすでに(笑)。

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