自分の気持ちを受け止めてくれるか、なんて。
それに自信が持てないから。



LETTER




ペラ…と、ページを捲る音が響く。
自分で立てたその音を聞きながら、彼は紙の上の文字を追っていた。
その直後、背後からも、同じ音が立って。
彼は薄く、笑みを浮かべる。
けれどすぐに、凭れかかっていたベッドが揺れて。
彼はわずかに、そこから背を離した。
と同時に、背中の上を何かが走って。
字を書いていく。
「優菜?」
「なんて書いたでしょう?」
顔を覗き込まれて、彼はふっと微笑っていた。
彼女を迎えにいくその時まで読んでいた本を、目敏く見つけられて――ただ単に、仕舞い忘れて、手近な棚の上に置いていただけなのだけれど――彼女が発した、読んでいいよ、というその言葉に甘えて。
ここに腰かけて、読みはじめてから、すぐに。
彼女も……途中で寄った本屋で買った雑誌を、ベッドの上で読んでいた。
の、だけれど。
「…飽きたのか?」
「……そう、だけど…」
素直にそれを認めたあとで、彼女は答えを強要してきて。
彼はくすくすと声を零す。
それから、手の中のものを傍らに置いて、答えを口にした。
「『けいくん』」
「…じゃあ、次ね?」
当たったらしい。
けれど、それを明確にはしないまま、彼女は彼の背中に指を走らせていく。
視界から彼女が消えるその直前に見えた、その表情はわくわくしたような――そんなもので。
彼はおとなしくそれを追うことに集中していた。
目を閉じて、頭の中で像を結ばせて。
「『ゆうな』?」
「そう」
指が離れたと同時に、声を上げれば。
彼女からは嬉しそうな言葉が発せられて。
「でも、いざとなると、何を書けばいいか、わかんないね?」
と、笑っていた。
言われて、確かに、なんて思う。
そんなことを考えていると、彼女が隣りに降りてきて。
視線を向ければ、笑みが返った。
「あのね?
いいこと考えたんだけど」
「?」
「わたしが珪くんに質問するから、その答えを書いて?」
「…背中に?」
「うん。で、それをわたしが当てるから」
綴ったあとで、彼女は背中を向けて。
えーと…、と、質問を考えはじめていた。
から、彼は笑いながら、指を滑らせていく。
「?
珪くん?」
「…俺の名前」
『珪』と漢字で書き記せば。
彼女からは不満の声が上がった。
「漢字で書いたら、わかりづらいよ?」
と。
「ひらがな?」
「その方が簡単じゃない?
さっき、わたしが珪くんの背中に書いたみたいに」
「……だな」
頷いて、彼女はまた、彼から視線を外す。
彼女の顔を、わずかに覗き込むようにして、質問を待って。
視線に気づいて、彼女の笑みが向けられて。
「じゃあね?
今、楽しい?」
くすくす笑って、彼女は言う。
それに、笑いを堪えて、彼は指を滑らせた。
YES』と、少し――反則気味で。
「ひらがなって言ったのに……」
「だめか?」
「………」
顔を覗き込んで、聞けば。
彼女は頬を膨らませて。
「…珪くん、ずるい……」
と、小さく零した。
それに首を傾げていると、視線を外されて。
彼は仕方なく、次を待つ。
「おなか、空いてますか?」
答えはわかっているはずなのに。
思いながらも、指を動かす。
「だよね?
さっきごはん、食べたもんね?」
「ああ」
二人で笑って。
彼女はまた、質問を口にした。
「この部屋で一番大事なものって、なぁに?」
質問に、一瞬、考えて。
部屋を見渡して。
「………」
たっぷりの時間、考えて。
それから、指を滑らせた。
わかってほしいけれど。
今はまだ、わからなくてもいい。
そんな気持ちで、反則を使って。
「え?
『イ』?」
「もう書かない」
「え?
全然わかんない」
書き終わったあとで、上がった声に。
半分、安堵して。
半分、肩を落とした。
まだ考え続けている彼女に、「わからなければ、それでいい」という意思表示のために、背中をぽんっと一つ叩いて。
彼は背を、ベッドに寄りかからせた。
「珪くんが今叩いたから、わかんなくなっちゃった…」
「そうか」
混乱してくれれば……なんて思っていたことなど言えずに。
答えを導き出そうとする彼女に、笑みを送って。
彼はまた、本を手に納めて。
それを開いていた。
反則を使って。
それでもなおと、素早く書いた。
わからない、という方が、あたりまえなぐらいに。
なのに、まだ、隣りで考え込んでいる彼女を見て。
彼は微笑を浮かべ続けていた。

END

 

反則使いまくりな珪くん(笑)。

題名ですが、『手紙』じゃなくて、『文字』という意味で捉えてください。
『漢字』でもいいけど(だったら、頭に『CHINESE』を付けましょう)。

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