誰にどう言われようと
僕は彼のそばに 居続ける

彼がそばにいることを 許してくれた時から
そう 誓ったんだから




求願





じゃあ、頑張ってねー。
なんて、彼に声を掛けて、スタジオを出る。
来た時よりも、ずっとずっと、軽くなった持ち物に、にっこりと笑う。
週二回だけだし。
人見知りの強い、この性格も手伝ったせいで。
ようやく、スタッフさんとも、打ち解けられてきた。
彼と仲がいいから。
それも手伝ったのか、スタッフの皆さん、僕に興味津々だったし。
小さく息を吐いて、一歩を踏み出す。
戻ったら、これを洗って……。
とか、考え出してたのに。
背後で開いた扉に、振り返った。
「?」
出てきたのは、彼のマネージャーさん。
何かあったのかな?
それとも、別の仕事?
考えて。
まぁ、僕には関係ないか、とかって答えを出せば。
視線は、自然と…前を向いたんだけど。
「ちょっと、いいかしら?」
聞こえた声に、もう一度、後ろを向いた。
結構、人がいない場所だから。
ここにいたのは、僕だけで。
それでも、ちょっと離れたところを歩いていく人も見えたんだけど。
「…僕……ですか?」
「ええ」
とりあえずの気持ちで聞いた声に、マネージャーさんはにっこりとした笑みで、答えてくれた。
何だろ? 彼の学校のことかな?
思いながら、荷物をその場に置いて。
きちんと身体の向きを変えれば。
「あなた…葉月とはどういう関係なの?」
なんて、質問。
「…友達ですけど?」
「………」
「同じクラスで。今は席は前後です。僕が前で、彼が後ろ。本当は、彼の後ろの方がよかったんですけど」
「どうして?」
「だって、彼、授業中に居眠りするんですよ? それで、人にノート貸せって。自業自得じゃないですか」
「………」
「それを注意するために、後ろの方が監視しやすいでしょう? でも、彼の後ろだと、黒板見えないんで。無理だという結論に」
「…仲、いいわよね?」
「そうですね。彼、遠慮ないんで。僕に。なので僕も、言いたいことは言うようにしてます。彼の周りで、そういう人、僕だけらしいんで。だからじゃないですかね?」
「………」
「そういう人がほかにも出来れば、彼の友達は増えていくんでしょうけど」
「それを願ってるの?」
「もちろんですよ。いじめられるんですよ? 遠慮がないってことは、叩かれるし、ばかって言われるし」
「……」
「そういう人が増えれば、減るかもしれないじゃないですか。僕に対する、そういうことが」
「…あなた……」
「はい?」
「葉月に何を求めてるの?」
「………」
もと、求め?
聞かれて、目を大きく見開いて。
それから、腕を組んで、考える。
何か求めてたかなー?
そんな感じで。
「…何だろ?」
「ないの?」
「うーん…。考えたこと、ないんですよね……」
「………」
「いじめないで欲しい、とかいうのは、いつも思ってますけど。あと、そばにいて…とか」
「え?」
首を傾げて。
それでも、眉根を寄せたままで、考えて。
「楽なんですよね。気の合う友達って感じで。……あー、でも。彼に恋人とか出来たら、邪魔ですねー」
「いいの? それで」
「はい?」
「恋人が出来ても」
「構いませんよ?」
「………」
「いいことじゃないですか。彼をからかうことも出来るし」
「…それって……」
「逆に、僕に出来たら、そういうことをされるんでしょうけど」
苦笑して腕組みを解く。
「でも、彼に恋人が出来るのは、まだ先ですかね? 女は煩いって、いつも言ってるから。ファンの子達に遠巻きに囁かれてるの、知ってますからね。彼」
「あなたは?」
「僕は、女の子扱いされてませんから」
「……そう」
呟くように言ったのに、マネージャーさんの視線は、僕からは離れていなくて。
何なんだろ?
そう思う。
――あー、もしかしてあれ?
邪魔だなーとか、思ってんのかな?
仕事第一でやってほしいから、女は邪魔…とか。
そうなると、僕とは正反対ですねぇ。
考えながら、僕も見続ける。
けど。
「あの、話がそれだけなら、いいですか? 僕も、まだバイト中なので」
微苦笑でそう届ければ、目の前の人物は、ごめんなさいね、と、踵を返していった。
……嫌いだ。
そう思う。
あの人、嫌い。
彼のことを、一人の人間として、見てない。
今の会話で、実感した。
だから、嫌い。
ほんの少し、視線に力を込めて。
背中を睨んで。
閉まった扉に、小さく舌を出して見せた。

「…そうか」
「うん」
「悪かったな」
「うん。気分を害しました」
ぷくっと頬を膨らませて、彼に報告。
バイトが終わって、がらんとした店内で、話してた。
目の前の店長は、くすくす笑ってるだけ。
「必死なんだよ。彼女も」
そんな風に、時々、あの人にフォロー、入れてたけど。
「でも、嫌いです」
「そう」
「はい」
「じゃあ、今度から、別の子に、配達、行ってもらおうかな?」
「困ります、それ」
店長の言葉に、即座に反応したのは、彼で。
僕はちょっと、驚いてた。
「な、何で?」
「ストレス発散、できなくなる」
「……僕をいじめることで、発散してたんですか」
「ああ」
頷いた彼の腕を叩けば。
店長はなおも、笑い続けてて。
「彼女、作っちゃえばいいのに」
「まだいい」
「煩いから?」
「ああ。それに……」
「それに?」
「おまえがいるから」
「………」
それはどういう意味?
首を傾げれば、彼は笑って。
「おまえが離れたら、考える」
そんな風に、言葉を綴った。
と、いうことはですよ?
「手が掛かっていると、そう言いたいんですか?」
「よくわかったな」
「ほー。それはそっくり、そのまま、返してあげますよ」
言えば、額は、彼の指で持って、弾かれて。
わずかに痛みを発して。
僕はそこを、押さえる。
彼は笑ってて。
楽しそうで。
彼に求めるもの。
それはやっぱり、これなんだと。
ちょっとだけ、矛盾を感じながら、思ってた。

END

 

玲VSマネージャー。
という話です。
電話で衝突させてもよかったんですけど。
こっちの二人は、電話でやり取りすることはほとんどないので。
こうなりました。

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