考えることは多い

家のこと
勉強のこと

自分のこと
好きな人のこと
友達のこと
自分のことを
心配してくれる――人たちのこと




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ふぅ、と息を吐いて。
額を流れる汗を拭う。
結構、体力も付いてきたかもしれない。
そう思えば、嬉しくて。
笑みを浮かべた。
ダイエットの効果は、周りの人たちの声で、わかっているから。
自信も、持てている。
開いた手のひらをじっと見つめて。
それから視線を上げる。
と。
そこにあったのは、見知った姿で。
「一ノ瀬さん!」
公園の前。
入り口を横切っていく姿に、声をかける。
彼は足を止めてくれて。
わたしは急いで、そのそばへ。
「どこか行くんですか?」
「ああ。本屋にでも行こうかと……」
「そうですか」
一緒に行きたい。
それが、本音。
けれど、今の自分は。
考えて。
それが無理なことは、目に見えていて。
仕方が、ないから。
「いってらっしゃい」
そう、言うほかは、なくて。
彼が行ってしまったら、家に帰ろう。
そう、思っていたのに。
「行かないのか?」
「え?」
「三十分ぐらいなら、待ってやってもいいが」
その言葉に、わたしは大きく目を見開いて。
行くということと、そのことに対するお礼を、口にできていた。

急いで家に帰って、シャワーを浴びて。
着替えて。
ドライヤーで髪を乾かして、結んで。
それから、三十分経っていないことを確認してから、バッグを掴んで、外へと出れば。
「短いかとも思ったんだが…」
なんて言葉と共に、彼はそこに、いてくれた。
「一ノ瀬さん!?」
「ん?」
「待って…たんですか?」
「先に行っていればよかったのか?」
「い、いえ! そういう意味じゃなくて……」
待っていてくれたことが嬉しい。
それから、促されるままに隣りについて、歩き出す。
ここに立ってもいいのかな?
それは、いつも考えること。
考えたって、仕方がないことは、痛いほどに…わかっているのに。
だって、ダメなら。
彼はきちんと、言ってくれる人だから。
そう、わかっているから。
彼は自分にも、他人にも、厳しくて。
そしてその分、優しい。
「何かほしいものでもあるんですか?」
エレベーターが来るまでの間に、そう問いを投げれば。
彼はちらりと、わたしを見てくれて。
それと同時に、扉が開く。
帰ってきたのは、特にない、というもの。
「?  じゃあ、何で本屋なんですか?」
「何となくな」
「……」
暇…だったのかな?
だったら、誘いに行けばよかった。
足を一歩踏み出しながら、小さく、息を吐く。
何となくだけれど。
ううん、彼は聡い人だから。
きっと、わたしの想いなんて、わかっているだろうと思う。
わかりやすい、とも思うし。
自分でこれだけわかっているんだから、彼はきっと、わかっている。
「がんばっているようだな」
「…え?」
急な言葉に、下がってしまっていた顔を上げれば。
そこには、ほんのりと笑みを浮かべている彼がいて。
頬が熱くなっていく。
「言われるだろ? 初めて会った時と、ずいぶん違う」
「あ…はい。いろんな人に、手伝ってもらってるし……。結果出さないと、悪いですもんね」
「そうだな。でも、身体のことも、考えてやれ。あまり根を詰めると、壊す」
「………」
心配?
そう…だよね?
今、心配してくれたんだよね?
横顔を見続けても、答えはなくて。
代わりに届けられたのは、不審なものを見る、そんな目で。
でも、わたしは嬉しかったから、首を横に振って、微笑うだけ。
一階に着いたことを、乗っていた箱が教えてくれて、扉が開く。
けれど、彼は降りようとはしなくて。
「一ノ瀬さん…?」
「………」
そう、問えば。
「旅行?」
「そう。旅行。せっかくの夏休みなんだし、行こうかなーって」
「一人で?」
「橘は部活」
「……友達は?」
「休みなわけないじゃん。みんな仕事」
「俺…部活休んでもいいっスよ?」
「でも、二人って…」
「あー、そっか……」
橘くんと……誰だろう?
思いながら、ひょこっと顔を出す。
彼もしていたことだから、同じように。
「バレたらマズイっスもんね」
「マズイね」
「柊は先生、できなくなる」
「なるね。辞めさせられちゃうかもね」
鳥川先生?
その事実に、急いで、箱の中に身を隠す。
彼は変わらず、二人に視線を送っていて。
「だから一人。心配しなくても大丈夫だよ。一泊しかしないし」
「せめて、どこに泊まるとか教えておいてほしいんスけど」
「うーん…っていうか、実家に一回帰ろうかなーぐらい?」
「それ、旅行って言わないって」
橘くんの言葉に、先生は笑ったみたいで。
くすくすという声が響いてくる。
あんな風に話す先生を、わたしは知らない。
先生らしい先生。
それが、印象だったから。
それに……。
「で? 今日はどこに行くの?」
「買い物に、ちょっと付き合ってほしいんスけど」
「ん! じゃあ行こうか。で、橘に手料理、おごってもらおう」
「はいはい」
足音が響く。
二人がこっちに、やってくる。
扉は閉まりはじめて。
彼は隠れるように、わたしの目の前。
笑い合って、歩いていく二人の背中が、垣間見えて。
そして。
「…二つ目を取ったのか……」
「?」
彼のそんな呟きが降ってきて。
意味が、わからなかったけれど。
聞いていいのかさえ、わたしには、わからないままで。
扉を開けて、歩き出した背を。
わたしは追いかけることしか、できなかった。

END

 

よりにもよって、てな具合で、一ノ瀬にバラしてみる(笑)。
ヒトミちゃんは大丈夫。
他人に言うような子じゃないから。
一ノ瀬は…言わないけど、心配もしてくれるけど、それを直接には言わないから、面倒な相手ってことで。
そういうとこが好きなんですけど、この人は。
で、何でこんな話になったかというと。
ただ単に、ヒトミちゃん視点の話が書きたかったってだけ(おーい)。

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