つんっと指で突ついて、言葉をかけて。
微笑している姿に、同じように笑ってた。君を見ていても、暖かいけれど。
君と同じものを見ていても暖かいってことを。
初めて知った気がした。
空間
見上げた先では、水玉の模様が広がっていって。
半球状の天井を、いつしかそれは、流れ落ちていく。
小さく息を吐けば、珪くん? なんて、呼ばれて。
彼は視線の先を移動させた。
彼の顔を見上げていた瞳は、微笑んでいて。
「何見てたの?」
先ほど、彼が見ていた天井へと、彼女は視線を移す。
小さく首が傾げられたのに、彼はふっと笑んで。
「まだ…、雨、降ってるなって」
そう、答えを返した。
それに、彼女は改めて、天井を見上げた。
透明の半球状のそこ。
小さな音を立てて、水は着地を繰り返して。
ある程度大きな塊になると、ゆっくりと、けれど途中で、加速がついて。
素早く――流れていく。
「本当だ……」
打ち付けられる天井を見て、彼女はポツリと零す。
手に持っている、折り畳んだ傘が。
何となく、邪魔で仕方がないのだけれど。
「何か…趣あるよね?」
「?」
落とされた言葉に、わずかに眉根を寄せる。
と、彼女は少しだけ、淋しそうに微笑んでいた。
「植物園って、あんまり、音っていう、音がないでしょう? 加えて、雨の音が余計に静かにさせてるって言うか……。単調な音が続いてるから――かな? 音は響いてるんだけど、こもってるっていうか…静かに響いてるっていうか……」
ものすごく落ち着けるよね?
その言葉には頷いて。
それからまた、ゆっくりと歩き出した。
彼女の手を引いて、緑の中を歩いていく。
時折、姿を現す、花たちに、彼女が小さく声を上げて。
綺麗だね? とか。
かわいいね? とか。
静かなこの空間を壊さないように。
本当に、彼にしか聞こえない声で、そう綴った。
彼女の笑顔につられるようにして、同じように笑みを浮かべて。
少しだけ薄暗いこの空間で。
彼女の笑顔だけが、華やかなように思えて。
「雨、やめばいいね?」
「帰る頃にな」
「…今はいいの?」
「関係ないだろ? 室内なんだし……」
「そうだけど…」
彼女が見上げたのを追いかけて、彼も視線を上げる。
まだ雨が、そこを打ちつけていて。
やむ気配はなかったけれど。
「何か…隔離されちゃってるみたいで、嫌だなって」
見上げたままで、彼女はそう、ぽつりと零した。
確かに、外の音は雨音で遮断されてしまっているから。
そう、思えなくもないけれど。
「だからね? 早くやめばいいなーって」
「静かでいいけどな…、俺……」
「そうだけど」
「それに……」
言いかけて、彼は口を閉ざす。
それに、彼女は「なぁに?」と、首を傾げてきて。
「……何でもない」
それでも彼は、そう言うほかは、できなかった。
言ってしまってもよかったのかもしれないけれど。
伝わらなければ、意味はなくて。
「………」
無言で見上げたそこは、まだ水玉が広がり続けている。
「静かだな」
「うん」
答えが返って、ほっとして。
彼は視線を下げた。
視線を伏せて、小さく息を吐くと。
彼女がくいっと袖を引いた。
嬉しそうな顔に、一度だけ、目を瞬いて。
それから、促すように軽く首を傾げた。
小さく微笑すると、彼女は笑みを濃くして。
「雨、やまなくていいかなって、思い直したの」
なんて、言葉を綴った。
どうして? と、問いを投げる。
彼女はまた、袖を引いて。
内緒話をするように、爪先立ちをして。
だから彼も、彼女へと耳を近づけた。
吐息が、わずかに――くすぐったくもあったけれど。
嬉しさの方が、先行する。
「………!」
「って、思ったの」
彼女は赤い顔をして、離れて。
彼は、右手で顔を覆ってから、その手を下へと滑らせて、口元を覆ったその状態で、止めた。
頬が熱くて。
けれど同時に、言えばよかった、なんて、思う。
『……二人っきりなんだなっていうのが、よくわかるよね?』
隔離されているように感じるから。
それでもここには、二人でいるから。
「先行こう?」
まだ赤い顔で、彼女は前を指差して。
その表情に、彼は大きく、頷きを返した。
END
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