細かいことを、覚えていなくても。
一緒にいられる理由になるなら、何でもいい。
そんな風に、少しだけ。
思ったりした。

それって…悪いことか?



雲の上で




小さな、それでも、持つには大きいかもしれない枝を手にして。
子供の集団が、彼の隣りを駆け抜けていった。
笑い声を発して。
笹の葉と、付けられている飾りの音と、一緒に。
「七夕だもんね」
にっこりと笑みを浮かべて、彼女は零して。
彼もまた、微笑しながら、短く返答する。
前方では、駆けることをやめたのか。
子供たちは枝を囲んで、見上げて。
何かを話し込んでいた。
「竹の枝…」
「?
なぁに?」
「この時期になると、よく見るな」
「うん。そうだね。普段は、全然って言っていいほど、見ないのにね?」
「ああ」
彼女がくすくすと笑って。
それからゆっくりと、歩き出す。
瞳が映しているのは、空で。
彼も、空へと、視線を投げた。
梅雨はまだ、明けたわけではないのに、この頃はずっと、暑い日が続いていて。
それでも、青空はあまり、覗かない。
今日も、似たような……曇り空で。
「星、見えないかもな」
ポツリと落とせば、彼女はコクンと、首を縦へと振る。
「でも、どこかでは見えてるから。ちゃんと、織姫と彦星は出会えてるよ」
「…だな」
「うん」
「たんざくにおねがいごとかくでしょ?
だれがかなえてくれるの?」
前方から聞こえた声に、視線を移したのは、二人同時で。
枝を見上げていた一人が、それを言ったらしいことは、わかったのだけれど。
それに、明確な答えを返せないのか。
子供たちは、口を噤んだまま。
彼もまた、「そう言えば…」と、零すだけで。
彼女も、あごにわずかに手を当てて、考え込んでいた。
「可能性があるのは、織姫のお父さん…?」
「名前…」
「結構悪役だもんね?
覚えてないなぁ、わたしも」
考えて、考えて。
「織姫と、彦星の願いが、年に一度だけ、叶うんだよな?」
「…うん」
「それに、便乗しようとしてるのか?
俺たち……」
「……そうかも」
また、考えて。
考えて。
「七夕って言ったら。織姫と彦星。天の川。願い事を書いた、短冊。笹の葉……だもんね?」
「細かいところとか、覚えてないんだな?
話の」
「……そうだね…」
息を吐いて。
もう一度だけ、彼は空を瞳に映す。
「お母さんに聞いてみようかな?」
「…知ってるのか?」
「たぶん…。知ってるような気が、するんだけど……。小さい頃、お母さんからその話を聞いてたし」
「…ああ」
彼女から視線を外して、子供たちを見れば。
その話には、決着がついたのか、また走っていく、背中が見えた。
けれど、一人の男の子が、それに付いていかずに、電柱を見ていて。
彼もまた、それを見る。
「…七夕、祭り…?」
「?
なぁに? どうしたの? 珪くん」
「あれ…」
足を止めて、張り紙を指差して。
それを見た彼女は、「そうそう」なんて、言葉を落とした。
「今日の夜に、商店街でやるんだって。日曜日が一番大きいらしいんだけど」
「…へぇー」
「一緒に…行く?」
首を傾げられて。
上目遣いで見られて。
彼はわずかに、驚きはしたけれど。
「行く」
そう、答えを返した。
嬉しそうな笑顔に、彼もつられて、笑みを零して。
「今日、行くのか?」
「え?
日曜日、じゃないの?」
「………」
「両方…?」
「…できれば」
彼女と一緒にいられる時間が増えるのなら。
考えて。
思って。
彼はそう、答える。
それに、彼女も、肯定の言葉を返してくれて。
「帰ったら、用意しなくちゃ」
「迎えに行く」
「うん!
ありがとう」
そうしてまた、帰路を進んで。
私服に着替えた彼が、浴衣を着た、彼女に出会うのは。
その、数時間後のこと。

END

 

七夕なので、そんな話。
七夕祭りに、デートに行くまでの話を、書きたかったんですが。
途中で、樹の疑問が、ぽろっと、出ちゃいました。
覚えてませんし。願い事を書く、理由がわからない…。
誰が叶えてくれるの?
本当に。

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