嫌だったのは
何も知らなかったから

たぶん それであってるとは 思う

思うけど

何かが違うと
心が叫ぶのは

なぜ なんだろう?




わからない ココロ





久しぶりに入った、彼女の部屋は。
以前と違う感じがして。
なぜか…落ち着かなかった。
それが何かを探ろうと、必死で、部屋の中を見渡して。
それから、俺は目を細める。
何をやってるんだ?
そう、気づいたから。
必死になるほどのことでもない。
それに、気づいたから。
それでも、気になっている俺がいて。
けれどそれは、ばたばたと響いてきた音に、俺は廊下へと、目を向けた。
「とにかく! 勝手に人の部屋に入れるなって言ってんの!」
わずかに見えた姿と、大きな声に、ふっと笑みを零す。
と、彼女はひょこっと、その顔を、開いていた扉から、覗かせた。
「いらっしゃい、葉月くん」
「ああ」
言ったあと、彼女は部屋に足を踏み入れて。
「今、尽が飲み物、持ってくるから」
言いながら、小さな折り畳みのテーブルを出す。
部屋の中央に、それを置いて。
「その辺座って」
言われて、俺はそのそばへと、腰を下ろした。
テーブルを挟んで、彼女も俺の目の前に、座り込んで。
「どこ行ってたんだ?」
「別に? ちょっと買い物」
「ふーん…」
「シャーペンの芯が、少なくなっちゃってて。だから」
ポケットから、今言った通りのものを出して、彼女は机の上に手を伸ばして、それを置く。
そうしてから、今度は部屋の外へと、目を向けた。
階段を上がってくる足音に気づいたのは、その時で。
ほどなくすれば、彼女の弟が、姿を現す。
「ほらよ、玲」
「はいはい、どうも」
「にしてもさ、弟をこき使うなよな」
「何言ってんだか。尽が葉月くんを勝手に入れなければ、こんなこと、頼まなかったんじゃん」
「葉月は玲に用があったんだから、仕方ないだろ? すぐに戻ってきたんだから、別にいいじゃん」
「よくない! リビングにでも通せばよかったじゃん」
「…あ、そっか」
「そっかって……。思いつかなかったの…?」
がっくりと肩を落として。
彼女は大きく、ため息を吐き出す。
それに、くすくすと笑みを零せば。
悪かったな、という、言葉を残して、尽は部屋から出ていった。
俺には、ゆっくりして行けよー、なんて、言ってたけど。
尽が出ていって。
バタンと、扉が閉まる。
それにもう一度、短く息を吐いてから、彼女は俺へと、そのコップを差し出した。
「アイスコーヒーを頼んでみました」
「どうも」
「いえいえ」
「おまえのは?」
「アイスティー。だから文句言ったんでしょ? あいつは」
なるほどな。
思いながら、口をつける。
そうすると、彼女の口から、問いが放たれた。
「で? 何の用?」
聞かれると、当然、思っていたから。
俺は、答えを口にする。
「これ」
そう、一言だけ。
「それ?」
彼女に見せたのは、レポート用紙。
手渡せば、彼女はそれを、じっと見て。
驚いたように、目をわずかに見開いてから。
俺へと、その視線を向けてくる。
「珍しいね? 葉月くんが僕に、勉強のことで、ご相談」
「そうか?」
「うん。珍しい。しかも、書いてることがメチャクチャ」
言われて、思わず吹き出せば。
だってそうじゃん。
なんて声が返った。
「筋が通ってない。枝別れし過ぎ」
「…そうか?」
「そうなんです。書き直そうね?」
切り取って。
それを、彼女の目の前に置いて。
まだ、何も書かれていない、真っ白な用紙を、俺のそばへと落ち着ける。
「書き出しは、これでいいと思うんだけど」
「ああ」
「次のは飛ばして、こっち書いて」
「わかった」
彼女の指が動く通りに、そこへ書き込んでいく。
まとめるっていうことが、俺はどうにも、苦手らしくて。
時々、彼女が横から、口出ししてきて、まとめてくれたのだけれど。
今回は、週明けが提出日だったから、それも望めないままだったから。
ここへと、来た。
それが、理由。
「前の日に連絡くれれば、買い物になんか、行かなかったのに」
俺が書いてる最中。
つまらなくなったのか、彼女がそう、ポツリと言葉を落とした。
それに、俺はレポート用紙から、顔を上げる。
「べつに、だめならだめで、よかったから」
「…そうですか」
「ああ」
頬杖を突いて、彼女は俺が書く文字を、視線で追いかけていて。
それが、すごいつまらなそうで。
俺は小さく、笑みを零した。
「それより…聞いていいか?」
言ってから、言わなければよかったと、後悔した。
そこまで気になっていたのだと、自分で気づいてしまった結果になったから。
でも彼女は、そんな俺の気など知らずに、「何ー?」なんて、聞いてくる。
つまらなくて、仕方がないから。
会話が続くのなら、嬉しいっていう。
そんなところなのかもしれない。
「葉月くん。僕、何か聞いた」
「…ああ」
「早く言ってよ! 気になるじゃん」
考え込んでないで、早く言う!
テーブルを叩きそうな勢いで、彼女は言って。
俺の言葉を促してくる。
それに、力なく笑ってから。
「この部屋…前に来た時と、変わってないか?」
「は?」
「………」
言ったのに。
ようやく、口にしたのに。
聞き返されて。
俺は眉根を寄せた。
それに、彼女は何かを考え込んで。
「…君が前に来たのって……」
「?」
「三ヶ月前…だっけ?」
「…ああ」
「七月…? ぐらい?」
「…たぶん」
答えれば、彼女はそっか、と一人で納得して。
それから、パソコンデスクを指差した。
「?」
「わかんない?」
「………」
「一度見たものは忘れない、じゃなかったの?」
「そんなにまじまじとは見てない」
「……なるほど」
頷いて、彼女は立ち上がる。
今、指差した方へと歩いていって。
何かを手にして、戻ってきた。
「これですよ、これ」
「? 何だ? これ」
「香炉」
「香炉…?」
テーブルの上に置いて、彼女は今度は、そばの棚から、点火具を取り出す。
それから、元の場所へと、腰を下ろした。
上に乗っている、小さな皿に、一緒に持ってきた液を、数適垂らして。
それから、下の筒に、火を灯す。
瞬間、鼻孔をくすぐった強い匂いに、俺は合点が行った。
ああ、これだ…と。
「夏休みにさ。君が仕事で、遊べなかった日、あったじゃない?」
「……ああ」
「その時にね? 守村くんと、植物園行ったの。聞きたいこととか、あったから」
言葉に、なぜか強く、腹が立った。
理由は、わからなくて。
そういったものに、俺は眉根を深く寄せた。
「その時に、売店で買ったのですよ」
「それを?」
「そ。カモミールなんだけど。ハーブティーが一般的らしいんだけどね。そんなに、飲んでられないし」
「で?」
「ハーブなんだしー、とか思いながら、探してたら、これがあったのです」
「………」
「カモミールって、結構万能なんだよ? 不眠、疲労、イライラに効くんだから」
「…おまえにそんなの、あったのか?」
「……酷いよ、そこ」
返ってきた言葉に、くすくすと笑う。
彼女はぷくっと、頬を膨らませていて。
「もう教えてあげない」
そう、ゆっくりと紡いだあと。
俺に向かって、横向きに、座り直した。
「悪い」
「知りませんー。一人で悩んでればー?」
「田端」
「知らなーい」
「………」
「………」
「…明日の放課後。チョコレートケーキ、おごってやる」
「乗った!」
わーい、なんて言いながら、俺に向かい合うように、座り直して。
俺はただ、苦笑するしか、なくて。
「で?」
「で、って?」
「守村と、行ったんだろ? 植物園」
「うん。それで?」
「何を聞いたんだ?」
「友達のために、少々」
「?」
「恋愛関係の話」
「……ああ」
理解して。
それを彼女に届ければ。
彼女はふっと、笑みを浮かべた。
「君のは、聞かないね? そういう話」
言われて。
俺はなぜか、悲しいと思ってた。
彼女は笑いながら、俺の答えを待っていて。
理由もわからずに、そう思っていることを、知られたくはなかったから。
「あったとしても、おまえには言わない」
平静を装って、そう届けた。
気づかれているかもしれない。
敏感な、彼女のことだから。
そう思いながら。
「何で!?」
彼女の、その言葉を聞く。
「おまえ、いろいろ、世話焼きそうだし」
「…だって君、動かなそうだし」
「必要ない」
そんなことを話しながら、俺はレポートをやり続けて。
「約束、忘れないでね?」
帰る時に言われた一言が。
理由なんて、わからなかったけれど。
ひどく――嬉しかった。

END

 

珪くんが気づいてるようで、気づいてない。
ってな話を、書きたかったのです。
だって、オリ主で、そういう話、書いてないし。

二次創作書きさんにたった10のお題』より、お借りしました。
オリ主の四つ目は、『香炉』。
でした。

web拍手に置いてました。

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