気にし過ぎかもしれない。
けど、気になったの。
わたしは何なんだろうって。
言葉
「そういう意味で言ったのではないと思うけど?」
瑞希さんの言葉に、わたしはコクンと頷く。
わたしだってそう思う。
思うけど……。
一度疑ってしまうと、止まらない。
「彼にとって、あなたと一緒に過ごしている時間が大切だから。だから周りに知られたくないと言うのではないの?」
「だと、思うけど……」
「自信がないのね? あなたには」
言われて、考えて。
それから、もう一度頷いた。
ため息を吐かれて、わたしは軽く俯いて。
「彼を信じ切ることはできないの?」
それには首を横に振る。
と、瑞希さんはまたため息。
日曜日に急に電話をかけてきてくれた瑞希さんと二人。
買い物に来て。
荷物をすべて、ギャリソンさんに任せて、わたしたちは喫茶店に立ち寄った。
そこで、わたしは悩みを打ち明けて。
そんな――状況。
「深読みし過ぎだと思うわ。ミズキは…そうとしか思えない」
「うん」
「もし、ミズキの言葉だけで不安なら、彼に聞いてみたらどう?」
「……そんなこと……」
「聞けないの?」
「………」
「怖がっているだけじゃ、前へは進めないわよ?」
「わかってる、けど……」
「わかってないわよ、あなたは」
言われて、わたしは黙る。
わかってないのかな?
ただずっと、怖がっているだけなのかもしれないけど。
「彼のすべてを知りたいのなら、自分のすべてを知ってもらわなければダメよ?」
「………」
「ミズキだって、色サマのことを知りたいから、がんばってミズキのことを知ってもらったのだもの。嫌われるかもしれない、じゃなくて。新しい自分を知ってもらって、その新しい自分も好きになってもらえるかもしれないって思わなくちゃ」
「瑞希さんって、強いんだね?」
「違うわよ!」
「でも……」
「色サマの隣りにミズキじゃない、べつの人が並ぶっていう、そのことを恐れているだけよ。東雲さんだって、そうでしょう?」
聞かれて、頷いた。
想像したくもないもん、そんなこと。
バイト中、彼の仕事場にお邪魔して。
そこでほかのモデルさんと一緒だったりして。
それが女の人だと、泣きそうになっちゃう。
だから。
だから――嫌。
「だったら、がんばりなさい」
笑みで言われて、わたしは驚いたけど。
すぐに頷いた。
この前のバイトの時。
彼が少し長く、休憩を取ってしまった。
わたしのバイト先である…喫茶店で。
彼は気づいていたのだけれど、まだ行きたくないって言い張ってて。
でも、わたしが怒ったら。
苦笑を零しながらも、腰を上げてくれた。
けど、心配で「平気?」って、聞いた。
その時に返ってきた言葉で。
わたしは今、こんなにも不安に陥っている。
「昼寝してたら時間過ぎたって、そう言う」
……思い出して、わたしは吐息。
学校に向かう足取りでさえ、何だか重く感じてしまう。
彼にしてみたらきっと、何気ない言葉。
わたしにしてみたら、それは。
不安で不安で、どうしようもない言葉。
とぼとぼと足を動かして。
学校への道程をたどる。
瑞希さんと約束したんだから。
そう――何度も言い聞かせてはいるんだけど。
「優菜?」
後ろから声をかけられて、わたしは足を止める。
もう、こんなところにまで来てたんだ。
周りを見渡して、ちょっと思った。
「どうした?」
「う、ううん。何でもないよ?」
顔を上げて、おはようって伝えて。
返ってきたあいさつを受け止めて……また歩き出して。
でも、何も言えない。
嫌われたら、とか。
呆れられたら、とか。
そんなことばっかり考えて。
瑞希さんみたいには、どうしても…考えられなくて。
「元気ない、な」
ポツリと零されて、俯いたまま。
何も返せなくて、不安になる。
このままじゃ、きっと。
何か行動を起こす前に嫌われてしまう。
顔を上げたら、校門が見えて。
わたしは口を開いた。
「あのね? どうしても…聞きたいことがあるの」
「……?」
「だから、その……」
「鞄置いたら、屋上、行くか?」
申し出に、彼の顔を見て。
ひどく心配そうなそれに、頷くことで肯定の意を届けた。
わたしを不安にさせているのが彼なら。
彼を不安にさせているのは、わたし。
それが、何だかちょっと、嬉しかった。
屋上の縁に身体を預けて、二人で腰かける。
並んで、腰を下ろして。
わたしは言葉を探った。
けど、頭を過ぎったのは、瑞希さんの言葉。
嫌われるかもしれない、じゃなくて。
好きになってもらえるかもしれない。
そんな言葉だったから。
「――この前、珪くんがお店に来た時、あったでしょう?」
「この前…?」
「先週の木曜日」
「…ああ」
思い出してくれたみたいで、ほっとして。
わたしはあまり考え込まずに口を開いた。
全部を吐き出したわたしを――好きになってくれるだろうか、彼は。
「あの時、『昼寝してたって言う』って、珪くん、言ったでしょう?」
「? ああ」
「でね、その時ね? 悲しくなっちゃったの」
「どうして?」
「………」
軽く俯いて、わたしは足を伸ばす。
膝の上に両手を乗せて。
指を絡めて。
「今の時間を、夢にしちゃいたいのかなって、そう…思っちゃったの」
って、ちゃんと言えた。
彼の顔は、見られないままだったけれど。
「話をしたこととか。ほんのわずかでも、一緒に過ごした時間とか。そういうのを……珪くんは夢にしちゃいたかったのかなって」
「そんなこと……」
「うん、考えすぎなのはわかってるんだけどね?
でも、そう思ったら……止まらなくなっちゃったの」
「………」
「わたしと一緒なのが夢なんだったら。この時間でさえも、夢だって言うんなら。何か――悲しくなっちゃった」
ぎゅっと握って、口を閉ざす。
視線は一点。
彼の顔は、見られない。
「……悪い」
言葉に、何もできなくて。
チャイムの音が、鳴り響く。
「けど俺、そんな風に考えたこと、ない」
コクンと頷いて。
知ってるとか、わかってるとか。
届けたかったけど、言えなかった。
「それに、今が夢なら。俺――ずっと続いてほしい」
伝えられたことに驚いて。
顔を上げて、彼を見た。
淋しそうな表情に、胸が痛んで。
「だめか?」
聞かれて、頭を横へと振った。
嬉しくて、どうしようもなくて。
胸が熱くなって。
それが外へと溢れ出して。
「ごめんね?」
やっと届けた言葉に、彼は大きな手のひらで。
わたしの頭を優しく、撫でてくれた。
END
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