この季節だから
そんな理由で
できること
彼に向かって
できること
この季節だから
ぼんやりと考えごとをしていたら。
案の定、彼の呼び声に、気づけなくて。
わたしはあわてて振り向いてた。
「…どうした?」
心配そうな顔に、緩く、首を振って。
大丈夫と、声も届けて。
だって、彼に言ってしまったら、つまらないから。
彼はきっと、いい案をくれるかもしれないけど。
でもそれじゃ、つまらない。
わたしだけで、考えたいから。
わたしだけで、確認、したいから。
彼はきっと、簡単に、その言葉を口にしてくれる。
簡単に…っていうのも、どこかおかしいけれど。
だって彼は、それを本気で信じているから。
だからこそ、それを言葉にして、わたしに届けてくれるから。
わたしも、その言葉を信じていないわけじゃない。
彼が信じていると、知っているから。
わたしも、信じられる。
だから、こそ。
わたしもそれを、彼に届けたい。
毎日、そう思うのに。
気恥ずかしさが、抜けなくて。
うんって、頷くだけ。
それじゃダメって、いつも思うのに。
わたしも、言葉にして、伝えようって。
いつもいつも、思うのに。
彼の言葉を、繰り返すだけかもしれない、とか。
うまく伝えられるかな、とか。
変に気を回してしまって。
結局、頷くだけで、終わっちゃう。
わたしも、そう思うとか。
そうだね、とか。
そう、同意の言葉を、届けるだけ。
それはすごく……嫌なこと。
したいことが、できなくて。
いつもいつも、ぎゅっと、手を握ってしまう。
彼は、気づいてくれるけれど。
それにもいつも、無理矢理笑みを浮かべて。
何でもないと、口にして。
素直になれない。
そう…思って。
そのたびに、自己嫌悪に陥ってしまう。
彼の見ていないところで。
そのことについて、考えて。
ため息を……吐き出して。
「優菜?」
「あ……」
顔を覗きこまれて。
また、そうだった、なんて、思い出す。
今は、彼と一緒。
なのにわたしは。
考えてしまっていて。
「どうか……したのか?」
不安に揺れる瞳に、眉尻を下げる。
大丈夫。
大丈夫だよ?
言ったとしても、そのすべてが伝わるかどうかなんて。
わたしには、わからなくて。
でも。
口にしなければ、きっと。
伝わることは…ないのかもしれない。
彼が気づいてしまったのなら。
彼のいる場所で、考えてしまったなら。
これは、ある種、いい機会なのかも、しれない。
考えて、ぎゅっと、こぶしを作る。
覚悟を決めなくちゃ。
そう、考える。
来年も。
また、こうして、暑い季節がやってきて。
そして、その時に、同じ想いを抱いていたいなら。
この恋を、大切にしたいなら。
来年も――と、そう、思うなら。
一歩踏み出して、両手を広げて。
ぎゅっと、彼に抱きついてみる。
彼は驚いていたみたいだったけど、すぐに、その戸惑いは消えたみたいで。
「どうした?」
さっきとは違う、どこか嬉しそうな声で、そう、聞いてくる。
背中に回した腕を、少し強めれば。
彼の手は、指は。
わたしの髪を、梳いてくれて。
好きって気持ちが、どんどん、身体の中に、積もっていくみたいで。
たとえるなら、雪……かな、とか。
考えたけれど。
溶けて、消えてしまうわけではないから、違うのかもしれなくて。
「珪くん」
「ん?」
「わたしも…信じてるから」
「?」
彼の胸に、頬を擦り寄せて。
そのあたたかさに、ほっと、息を吐く。
と。
「……わかってる」
そんな呟きが、上から降ってきた。
顔を上げれば、唇が重なって。
「大丈夫」
そんな言葉も、注がれて。
きっとずっと、続いていく。
信じ続けているから、大丈夫。
それに、結局頷いてしまって。
ダメだなぁって、また、思ってしまったけど。
仕方ないのかなって、考え直す。
わたしは、彼のことを信じ切ってしまっているから。
そして彼もきっと。
わたしのことを、信じてくれているから。
考えて。
わたしは笑顔で、そのまま、彼の腕に、居続けた。
END
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