| 何やってるんだろう? 心は必死に
私自身に 問いかけてるのに
心
あたたかさに、ほっとしてしまう。
だからといって、それに縋ってしまうのも、嫌で。
なのに私は。
この腕の中から、抜け出せないでいる。
「…聞いていい?」
「? 何スか?」
「……いつもと一緒だし…」
零せば、彼はくすくすと笑い出して。
顔を、頬へと近づけてくる。
「でも、変えないっスよ?」
「何を?」
「『柊』って呼ぶの」
二人きりの時ぐらいは。
加えられた言葉に、息が詰まった。
聞かなければよかった。
それが素直な、感想。
踏み込ませたのは、私。
踏み込むことを、許したのは。
ほかでもない、私自身。
だから、仕方のないことなんだけれど。
バスケ部のユニフォーム。
素の腕に、らしくもなく、ドキドキして。
そんなわけないと、何度も自分に、言い聞かせて。
「汗臭い…」
「部活中っスよ? 俺」
「だから、それには戻らなくていいわけ?」
「柊は? コピー取らなくていいわけ?」
「…取るもん」
頬を膨らませれば、彼はまた、笑い出して。
腕の力を、強めて。
「コピー、取らせてよ」
「取ればいいじゃないっスか」
「…腕」
「腰に回していいっスか?」
言いながら、彼の手は腰を滑って。
おなかの前で、組まれる。
「…図々しい」
「嫌がらないのが悪い」
「………」
嫌じゃないから。
何もできない。
「それで? 部活は?」
寄り掛かりそうになる自分が、嫌。
「あと五分」
それでも、この身体を包む腕は、このままがいい。
「………」
わがままで、最低。
「柊?」
手を動かして、コピーを取って。
二枚、取って。
「橘」
振り返って。
首だけで…振り返って。
彼の顔を、見続けていれば。
「………」
「よかったんスよね?」
重なった唇は、一瞬で離れたけれど。
やっぱり、嫌ではなくて。
寄り掛かりそうになる自分が、嫌で。
でも、この腕の中にいるのは、心地よくて。
手放すのは、嫌で。
――ああ、そういえば。
私、忘れてる……。
「柊?」
「忘れてた」
「? 何を?」
「……いろいろ」
そう、いろいろ。
考えて、コピー機から、紙を手にする。
あいつのこととか。
龍太郎のこととか。
本当に、いろいろ。
忘れてた。
彼のことに集中すると。
忘れてしまう。
忘れたくないのに。
忘れられる。
頬がすり寄せられて。
そしてそこに、唇も、寄せられて。
すっぽりと、包み込まれてしまって。
あたたかくて。
逃げようなんていう気は、起きない。
後頭部に、彼の胸が当たって。
自然と、身体から力が抜けていく。
何をやってるの?
なんて。
冷静な自分が、上から見下ろしているのに。
「最低…だよね?」
「何が?」
「………」
「別にいいっスよ」
言えなくて。
何がいいのか、なんて。
聞けなくて。
なのに彼は。
「別に、いい」
それしか、言わなくて。
さっき、彼が言った五分なんて、とうに過ぎてしまっていたのに。
私は、何も言えないままで。
ぎゅっと、強められた腕に。
知らないうちに、身を委ねてた。
END
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