思い出さなければいいと
彼女とこうして歩く度に 思う

俺も彼女も 変わったのだから

遠い日の約束なんて
思い出さない方が――いい

そう 俺は思う




並んで





きょろきょろと、彼女は俺の隣りで、周りを見渡していて。
それに俺は、小さく息を吐く。
と、彼女は必死になりはじめて。
「…あっち……のような、気がする」
「………」
「仕方ないでしょう? 僕は君と違って、忘れるんだから」
頬を膨らませて、そう紡いで。
それから、何も言わない俺の腕を引っ張って、彼女は歩きはじめた。
引きずられるようにして、俺も歩き出して。
そうしながら、間違っていた時のためにと、周りの景色を見る。
ここまでの道は、もう覚えているから。
迷うということはない。
けれど行き先は。
こいつしか…知らないから。
どうすることも、できなくて。
「すっごい綺麗だったんだけど。一回しか行ってないから、よくわかんないんだよねー。行き方」
なんて、電車の中で言っていたから。
こうなるんだろうことは、予測していたけれど。
「麻衣が道案内してくれたんだよねー。麻衣、勘が鋭くてさ」
道に迷うことって、ほとんどないんだもん。
言いながら、彼女は俺の腕を引っ張って、歩いて行く。
昔は――逆だったのにな。
思いながら、目を細めた。
小さい頃は、いつも彼女は泣いていて。
目を真っ赤にしていて。
それでも、俺の手を取ってくれて……。
小さな手を思い出して、息を吐く。
それに、わずかに振り返った彼女に、首を振って見せた。
そうすれば彼女は、また前を向いて。
考えながら歩いているはずなのに、歩調は、早いまま。
「あ」
「ん? 何ー?」
見えたものに、今度は俺が、彼女よりも先を歩いて。
今度は彼女が、引きずられて。
こんなに簡単に、触れてくることもなかったな。
そういえば。
思い出しながら、それの前に立てば。
彼女は俺の後ろから。
俺の腰の辺りに手を添えて、覗き込んでくる。
昔は……考えて。
それでも、彼女から触れてくることはなかった。
いつも、俺が手を差し伸べて。
いつも彼女が、それを取る。
そうやって、彼女とは過ごしていた。
昔は。
「今どこ?」
「ここ」
「そこ?」
「どこ行くんだ?」
「えっとねー? その右の方?」
「……右?」
「………」
「………」
「…道、一本、間違えてるね?」
苦笑している、その表情を瞳に映して。
俺はくるりと、踵を返す。
するりと滑ってしまった、彼女の手を取って。
歩き出して。
そして、こうしている方が、やっぱりいいと、思っていた。
引きずられるよりも。
引きずるよりも。
彼女の手を引いて、歩く方が。
「覚えたの?」
「ああ」
「………」
「どうした?」
左を向いて、少し視線を下げれば。
俺の顔を見上げている、彼女の瞳と、かち合う。
「…何か……変な感じ」
「?」
「いつも、僕が引っ張ってるじゃん? だから、君に引っ張られるって、ちょっと」
「……そうか?」
「うん…。麻衣にはいつも、引いてもらってるけど」
「それは…平気なのか?」
「うん! 麻衣とはいつも、手、繋いでるから」
「………」
にっこりと笑った彼女に、瞬きを数度して。
それでも、彼女は笑みを崩さないままで、俺の隣りにいた。
ある意味。
彼女の親友は、俺の代わりなのかもしれない。
昔は、俺が彼女の手を引いていた。
でも今は。
彼女の手を引いて歩くのは。
彼女の、親友の役目。
「………」
思えば思うほど。
考えれば考えるほど。
なぜか……くやしくて。
変な感じ、と、彼女は言ったから。
それを振り払うためか。
彼女は大きく、わざとらしく。
手を振って、歩いていた。

END

 

誰でも手軽に出来る「10ノお題」』さまからお借りいたしました。
一つ目は記憶。
オフィ主とは違うお題なのです。

で、記憶と言うことで考えたら。
どうしても、小さい頃のことになっちゃうわけで。

web拍手に、お礼として置いてました。

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